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カテゴリ:読書
■山田太一の書く小説はどこか北村薫氏の円紫師匠シリーズに似ている。浅草、江戸前の香りがする。語りに独特の格調高さがある。この話は狭義のミステリーではないが、現実と少しずれた世界を描いている。
■脚本家の主人公のもとに30年近く会っていなかった彌太郎さんから手紙が届く。甚野彌太郎、主人公とは一回りくらい年上のなんだかヤクザまがいの得体の知れない人物である。彼が脚本家に話す物語を中心にこの小説は展開する。なぜ彼が30年もぷっつりと消息を絶っていたのか。戦後勤めていたマッカーサー司令部で殺人事件を目撃したという。そのことが原因で口封じのためにアメリカ軍に拉致されたのだという。監獄とも言えない粗末な施設に30年近くたったひとりで監禁されていたという。 ■ほとんどが脚本家と彌太郎さんの会話で成り立っているのだが、その会話が一筋縄ではいかない。「そうですね、わかりますよ」、相槌を打つ脚本家の言葉に彼はいちいち「簡単にわかるなんて言うな」とたしなめる。時には暴力を使って脚本家を攻撃する。「俺の話なんてお前にわかるわけないんだ」と。著者はあの山田太一、彼のドラマを見たことのある人ならあのセリフの独特の明晰さ、リアルさを思い浮かべるだろう。もちろんこの小説の会話シーンも素晴らしいのだが、それはテレビのようには心地よく流れていかない。 ■会話ではなく対話なんだと思う。言ったことが一旦彌太郎さんを介して自分に戻ってくる。本当にそう思って言っている言葉なのか、本当に相手を思って言っている言葉なのか。もちろん日常生活でそんなこといちいち考えていたら会話なんて成り立たない。どんどん周りは動いているし、立ち止まったら電車にも乗れない。この小説の中での二人の会話は主に浅草の食堂で上カツ丼を食べながら(これがとても美味そう)行われている。同じ著者の「異人たちとの夏」のすき焼きのシーンを思い浮かべればいいかもしれない。 ■想像してみる。自分が全く理不尽な理由で世間と隔絶された場所に封じ込まれることを。外に出ることも本を読むことも何をすることも許されず、ただ決められた時間に食事を与えられるだけの30年間。小野田少尉や北朝鮮による拉致被害者のこと。感想なんて言えないよ。想像なんてできないよ。 ■彌太郎さんは何だったんだろう。それが虚像なのか実像なのかを含めて物語は唐突に幕を閉じる。まだ語られなかった、途中だった話が山ほど残っている。その話を聞きたいような、聞きたくないような、もう聞いたような気持ちになって読み終えた。この彌太郎さん、途中からは緒方拳さんを頭に浮かべて読んでいました。主人公は今回も風間杜夫さんでどうでしょう。 ■さて水道管破裂事件続報である。朝タウンページで水道局に連絡、そしたら音声案内で工事センターを紹介される。そこに電話したら指定の業者さんに連絡してくれた。約1時間で業者さん到着。水漏れ箇所を素早く見つけ、補修。原因は水道管の老朽化。所要時間20分。しかしそれが済んでもまだメーターは動いているという。どこかでまだ水漏れがあるということだ。まるで医者の聴診器みたいなものであちこちに耳を当てる。そして異常箇所を発見。で補修。都合約1時間30分。 ■こうして水の出ない生活を送ってみると、そのありがたさを実感。地震の被害に遭われた方々、本当に大変な思いをされているのですね。当たり前の幸せをもっと感じるべきだ。ありがとう、町の工事屋さん。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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おはようございます。
嬉しいです。頑張って下さい。今日のお昼は、NHK「みんなの歌」の「メトロポリタン美術館」の曲をラジオで聴きます。 (2024/05/28 09:47:14 AM) |
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