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カテゴリ:演劇
先日WOWOWで放送された福島三郎原作、ケラリーノ・サンドロヴィッチ潤色・演出による「噂の男」をやっと観る。
■ジョン・シュレシンジャーの「真夜中のカウボーイ」を見たことがある人なら、例のハリー・ニルソンが歌うこの映画の主題歌を知らない人はないだろう。アコギの前奏で始まる何やら素朴で美しいフォークソングの印象は劇中繰り広げられた裏切りや背徳行為や殺人や不幸極まりない死を一切浄化するような働きを担っていて、すごくヘビーなドラマだったはずなのに、もう一回見てみたいと思わせるあとひき感に一役も二役もかっている。ラストのジョン・ボイドの途方に暮れた表情も、念願のフロリダに降り立つことなくバスの座席で固まってしまったダスティン・ホフマンの姿も、すごく愛おしいものとして頭に残してしまうわけだ。 ■そしてそれと同じ曲が使われ、その芝居のタイトルにもなっているこの舞台もまた、嫌な話の詰め合わせであるくせに、なぜか見終わったあとに残る感情は人間万歳だったりはしないか。 ■福島三郎という人は劇団サンシャインボーイズ出身らしい。ほとんど嫌な人は登場しないこの劇団の芝居から遠く離れて今回依頼された話は逆に善い人がひとりも出てこない物語だ。主要なキャストは演劇界では名うての5人。これだけのメンバーが集まってしまったら、いくらでも負の要素とか意外性を書き加えて予想できない展開を見せなければ勿体ないじゃないか。しかも演出はケラだ。 ■大人計画のウーマンリブ公演にも感じたが、この芝居もまた観客よりも演じる役者連中の方が舞台の喜びを享受している種類の作品だと思う。それぞれのバンドのギタリストなりドラマーなりボーカルなりが、ある一定期間結成したグループで様々な種類の音楽を演奏する喜びに似ている。普段の自分のバンドでは出来ないようなギターバトルやボーカルのかけ合い、ツアーが進んでいくにつれてそのアンサンブルもまた俄然上がっていくんだろう。その背後にはもちろんそれぞれの技量についてのリスペクトがある。 ■とりわけ橋本じゅんと橋本さとしによる”中川家”ならぬ、”橋本家”を思わせる漫才シーンが好きだ。本家からのアドバイスに基づいて再現された即席ネタも公演が終わる頃にはあるひとつの高みに達しようとしている。何度も繰り返される同じネタもその日その日の観客の反応によって盛り上がったり、萎んでしまったり、それを瞬時に察知して微調整するという反射神経。そんな客席との一体感はミュージシャンのライブパフォーマンスにすごく似てはいないか。 ■堺雅人、橋本じゅん、八嶋智人、山内圭哉、橋本さとし。とにかく役者の力量が凄い。たとえば俊輔とヒデと伸二とジダンとベッカムがそろった中盤のような舞台だ。しかもそれぞれの専門性が著しく崩壊している。たとえば堺君に顕著だが、ここでの彼はホモセクシャルで劇中酷い性的なイジメに遭う。微笑みの貴公子も形無し。彼のイメージが壊れていく様にドン引きしていく観客が増えれば増えるほど、燃えてくる役者の生理も手に取るように判る。 ■山南敬助、武田観柳斉、橋本左内、広岡子之次郎。「新選組!」にはこのうち4人の役者が登場した。唯一あのドラマに出演のなかった橋本さとしだが、彼の発散するオーラは尋常ではない。できれば原田左之助を彼で見たかった気がする。また橋本じゅんも山内圭哉も、あの一回きりではなんとも勿体なかったと感じるのだがどうだろう。 PS ■唯一の女性出演者、水野顕子が凄く印象的。ああいう顔にとても弱い。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007/03/11 07:50:26 PM
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