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テーマ:DVD映画鑑賞(13603)
カテゴリ:映画
■「フラガール」と「フルモンティ」と、この「リトルダンサー」、この三つの作品に共通するものを挙げてみなさいと言われたら、三作とも見たことのある人ならば、比較的簡単にその答を言い当てることはできると思う。
■ひとつは炭坑閉鎖映画であること。そんなネーミングが有効かどうかはさておき、いずれにも斜陽化する石炭産業とそれに従事していた労働者たちの憤懣が描かれる。どの映画にも共通して黒い顔をして苦い表情の男たちが出てくる。 ■そしてもうひとつの共通点はダンスシーンが物語のクライマックスに描かれ、それがまた絵に描いたようなハッピィエンド感を演出しているという点だ。炭坑と言えば月が出た出た♪ と踊る炭坑節の世界が洋の東西を問わず普遍なのかはわからないが、なぜだかこの人たちはよく踊るのである。 ■さてリトルダンサー(原題はBilly Elliot)の冒頭は主人公ビリーがある朝、兄貴のレコードに内緒で針を落とすシーンから始まる。それがT-Rexの「電気の武者」であること、そして彼が選んだ1曲が「Cosmic Dancer」だったということ、もうその時点でこの映画はわたしの好みだ。その曲に乗ってベッドでピョンピョン跳ねるビリー役ジェイミー・ベルの姿がタイトルバックにかぶる。(T-Rex以外にもスタイル・カウンシルやクラッシュなどUKロックの良心が適材適所にバックにはいる) ■1984年当時のサッチャー政権におけるイギリスの社会状況、ダーラムという地方都市と首都ロンドンの物理的及び文化的な距離感、当時のイギリスの階級意識。そんな諸事情を誰かレクチャーしてくれれば、この物語の奥行きはもっともっと広がって見える。ただ、たとえそんな背景は抜きにしても、この家族の成長物語は観る者の胸をうつことになるのではないか。 ■観ていて思ったのはこれは『イギリスの北の国から』ではないか、ということで、息子の夢をかなえる為に彼をロンドンに連れて行った父親は田中邦衛をちょっとハンサムにしただけのように見えた。そしてその彼が面接会場で審査員に誠意のカボチャを渡すのではないかとハラハラして見ていた。 ■このケビン・コスナーを少しふっくらさせたような父親(ギャリー・ルイス)は最初は男がバレエなんてとビリーの夢に理解を示さないのであるが、その意志が本物であると理解してからは敢えてスト破りの汚名に耐え、昨日まで一緒に戦っていた労働者たちの罵声を浴びることになる。 ■すごく穿った見方をすれば、この父親は息子にゲイの兆候を察知し、彼が明らかな差別を受ける前に、この田舎町から逃がすべきだと感じたのではないか。夜の体育館で親友マイケルと踊る彼を目撃した時の彼の表情はそれだけ堅いものだった。実際にはその性癖を濃く纏っていたのはマイケルの方だったのだが。 ■ラストの25才になったビリーを演じるのはアダム・クーパー!まるでスタジアムに入る直前のトッティのようなその後ろ姿にアスリ-トの肉体美を見る。チュチュを身につけ「Swan Lake」を踊るその姿は性別など超越したコンプリートダンサーの美しさそのものだった。 PS ■ビリー役のジェイミー・ベルは何千人ものオーディションを勝ち抜いて本作の主人公に選ばれただけあって、非常にチャーミング。きっと彼も面接で試験官を唸らせる気の利いたセリフのひとつやふたつかましたに違いない。ともあれ、この先も素敵な映画に出続けて欲しい役者だ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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