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カテゴリ:読書
■そのタイトルと日経ネットに連載されていたという経緯から、定職を持たない者がいかにして一戸建てを購入することができるのかを伝授する小説と想像する向きも少なからずあるだろう。
■しかし、有川浩という小説家の作風を知る者にとっては、そんなビジネスライクなハウツー本なんかになるわけないだろうって思うわけで、「植物図鑑」の口直しってわけでもないけど、読んでみましたよ。 ■なぜ「家」を買うかに力点を置いた物語。高級住宅街にまぎれた「社宅」に住む一家が隣近所からの異様な視線に耐えられず、そこから抜け出すためには「家」を買って新しい環境に身を置かなければならない。その理由はフリーター氏本人の事情というよりも、ある家族のある病気のためなのだけれども。 ■3か月で就職先をやめ、バイト生活を転々としながら、人生なんとかなるんじゃね、なんてタカをくくっていた彼が、姉の一言でぺしゃんこになり(このお姉さんの男前ぶりがかっこいいったらない)、一転、再就職活動に躍起になる中盤ははなはだ就活小説の様。 ■無理解な親父を絵にかいたような父親も最後までただの木偶の坊としてではなく、人間味のある男性のひとつの典型のように描き出せるのは有川視点の真骨頂。今までなかった彼女の描く家族小説がまるで向田邦子のテレビドラマのようだと思ったのはひとつの発見かもしれない。 ■この作家のもうひとつの真骨頂である恋愛小説の要素は控えめながら皆無ではない。再就職口で異例の大役を仰せつけられた彼が部下として雇うことになる女の子とのロマンス指数はいくらか暗めのトーン漂うこの小説の中ではそこだけ輝いて眩しいくらい。 ■結局好みの方の有川作品で良かった。それにしてもこの人の(それが異性であっても、年長者であっても)人を糾弾する言葉の淀みなく沸いていく様には凄まじいものを感じる。敵にしたくない女性がいるとしたら、彼女なんかその筆頭に来る。最後にタイトルは「元フリーター、家を買う」となっていた方が安心だと思うけどな。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009/09/13 03:27:53 PM
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