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カテゴリ:読書
■高校卒業後、25年ぶりにかつてのブラスバンド部員たちが(ある部員の結婚披露宴で演奏するために)再集合する物語なのだが、読み進めていく中で、30人以上の登場人物たちのプロフィールをいちいち巻頭にあるリストを捲り返しながら確認する作業で興をそがれる。これがロックバンドの物語だったら、もっともっと読み進めるスピードは速かったはずだ。
■その昔、吹奏楽部に在籍していたことのある人だったら、その人物の固有名詞というよりも各楽器の名称で、その個性とか役割とかキャラクターなどをすんなりと受け入れることはできるのだろうが、それぞれの楽器がどんな形状をしていてどんな音が出るのかわからない素人読者にはちょっと回り道が多すぎる読書にもなりかねない小説だと思う。 ■語り手である主人公の担当する楽器はコントラバス。それがどんな大きさで楽団の中でどんな働きをするのか、ほとんど知識の無いわたしだが、作者の丁寧かつ愛情あふれるその描写力によって、彼の性格とか生活レベルとか対人関係などというコントラバス的人間像を垣間見ることができた。 ■たとえ9人でできる野球であっても25年前のレギュラーが全員総動員で再結集できる確率は相当に低い。それが30人もの大所帯である演劇部とか吹奏楽部であったらなおのことだ。死んでしまった者もいるかもしれないし、行方知れずの者もいるかもしれないし、もう楽器を手に取ることもできない者もいるかもしれない。 ■それでも高校の部活、特に文化系部活における様々な人間関係の複雑に入り組んだ様(部活内恋愛、顧問との確執、先輩後輩のしがらみ、などなど)は、回顧するにはエピソードの宝庫であり、小説の題材としてはうってつけであるとも言える。 ■過去と現在が数々の名曲によって綴られていくこの物語は客観的に言ってしまえば、そんなに劇的でも感動的でもない。それでもこの作者の音楽に対する適切かつ真摯な言葉には胸を打たれる部分が数多く存在した。 音楽なんて振動に過ぎない。 音楽なんて徒労に過ぎない。 音楽は何も与えてくれない。与えられると錯覚をする僕らがいるだけだ。 そのくせ音楽は僕らから色々に奪う。人生を残らず奪われる者たちさえいる。 なのに、苦労を厭わず人は音楽を奏でようとする。(P363より) ■この文章を読んでちょっと加藤和彦氏のことを考えた。このページは付箋を貼って永久保存したい。なおこの小説に関してライダーズの鈴木博文氏が素晴らしい書評を書いている。実際に音楽をやっている人が読めばもっともっと身に沁みる物語なんだろうなって思う。結局わたしはいつになったら楽器を手に取るのだろう。いきなり指揮者なんていう暴挙には出ないつもりではいるのだが。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009/11/22 12:09:05 AM
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