|
カテゴリ:読書
■毎年、年末になると私的ベストテンの脳内選考会が始まるわけだが、今年の小説部門では恒例の伊坂作品ベスト3ランクインが危ういことになっている。
■新作が滞っているわけではない。今年について言えば、「あるキング」そしてこの「SOSの猿」と2作も出版され、例年以上にハイペースな状況(旧作の文庫化も順調、早く『砂漠』が出版されないかな)なのだが、その吸引力みたいなものに翳りが。 ■色んなところで作者が言っている「書きたいものを書く」という姿勢が読者に対する媚を全く感じさせない。これらが本当に彼の書きたいものだったとしたら、それまでの小説群は編集者側の要望とかアドバイスが彼の本意を曲げて書かせたものだったということか。 ■張り巡らされた伏線が終盤、まさに音をたてるように「カチッカチッ」と嵌まっていく快感が伊坂作品にはあった。それが独特の格言めいたかっこいい決め台詞と共にもたらされる余韻は物語を読む楽しみを充分満喫できたと思わせる時間だったわけだ。その最たるものは「ゴールデンスランバー」だったように思う。 ■そんな散らかした欠片は全部きっちり片付けました、というような作風がここ最近の作品には感じられない。最初から何か散らかしておくことを前提としているような意志みたいなものさえ感じる。 ■コラボレーションという形式も今回が初めてではない。以前にも斉藤和義の歌、山下敦弘の映画とリンクした作品があった。そしてこの「SOSの猿」は漫画家五十嵐大介との競作だということだ。そのコミック版の発行が遅れている現時点で、どちらの作品が主となり従となるのかという読み方はまだ許されないが、「エクソシスト」と「西遊記」と「ひきこもりの少年」というモチーフはどちらかと言えば、コミック寄りの素材であったのではないかという考え方もできるのではないか。 ■また彼自身初めての新聞による連載小説という書かれ方もある種のスピード感を損ねている原因なのかもしれない。頻繁に登場してくる「西遊記」のエピソードはともあれ、悪魔祓いの描写については後半ほとんど言及されないままに尻つぼみで終わる。(せっかく単行本の表紙がポルターガイストなのにね) ■ただミスター因果関係なる五十嵐真の物語は結構魅力的で、今後このキャラクターが伊坂作品に再登場してくる可能性さえ感じる。こういう非感情的な人物を書かせたら、村上春樹と伊坂幸太郎は双璧だと思う。 ■読売新聞を購読していたわけではないので、この小説が毎日(毎夕)どんな風に紙面に登場していたのかわからないが、高木桜子さんの挿画日記を見ると、結構この伊坂テイストと彼女のイラストはグッドマッチだったのではないかと思う。それもまた字だけになった時の物足りなさの原因なのかな、などとも思った。ともあれ、もう一作くらいは自分の好きな世界を描いてくれていいから、その次くらいにはまた「アヒル」や「砂漠」や「ゴールデンスランバー」みたいな小説を読みたいとリクエストしておこう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009/11/30 10:10:56 PM
コメント(0) | コメントを書く
[読書] カテゴリの最新記事
|
|