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カテゴリ:幼かった頃
戦時中は、田舎にはすでに、車というものが無かった。
家の前を荷車を曳く馬がぽっこぽっこぽっこと、ひずめの音をたてて 通り過ぎていくのだ。ある日荷馬車が、我が家の前に止まっていたとき 弟のひたいに、荷馬車の後ろが、がたんとぶつかった。 人々が家に、走り込んで「坊ちゃんが怪我をした===!! 」と叫ぶ。 母は押っ取り刀で、飛び出した。 額から血が噴き出して、黄色のセーターを真っ赤に染めていた弟を抱いて、 母は、脱兎のごとく医院に走った。 医者は額を麻酔なしで、縫った。 弟は、1.2才だったはず。しかし、全く泣かなかったので、 この子は強い男の子だと、ずっと近所の評判になった。 弟の手術の後、母はひょいと私を抱き上げて、 「この子は扁桃腺が腫れてますから診てください」と、医者に言った。 「はい、あ~~ん」 私は、口を開けなかった。 どんなに皆が、おさえつけて、口を開けさせようとしたか! (私は死んでも口を開けるもんか)と思っていた。 ただただ怖かった。 大人達は、あきらめた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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