「共生の時代」の博物館
共生の時代,と言われます.自然と人間は持ちつ持たれつの関係にある.自然を排除するのでなく,自然も人間も共に生きていけるような,そういうスタイルが求められるようになっています. で,いきなり脱線しますが,生物学的には「共生」とは「持ちつ持たれつの関係」だけを指すわけではありません.生物どうしが,「食う-食われる」以外の何かの関係をもって「共に生きて」いれば,たとえば片方ばかりが得をして,もう片方は損ばかりしていても,生物学的には「共生」です. という話はさて置いて... ま,とにかく自然を排除するのでなく,自然と仲良くやって行きましょう,というのが「共生の時代」というスローガンの趣旨でしょうね. 昔は「邪魔物は消せ」という思想でした.殺虫剤,除草剤,抗生物質,... とにかく人間にとって害をなすものは殺す,消す,遠ざける,そういう原理で人間は(少なくとも行政は)行動してきたと言ってよいでしょう.砂防ダム,高い堤防,強い軍隊.どれもこれも「排除の思想」です.21世紀とは,これらの思想や手法の限界がはっきり見え始めた時代と言えるかもしれません. ところが,仲良くしましょうと言われても,実際はなかなか難しいわけです.クマが出没して大怪我をさせられた.「それはいかん.クマを殺せ」というのが従来の発想.「いやいや,クマとも仲良くやりましょう」というのが「共生の時代」の発想.にわかには受け入れられないでしょう? クマとの「共生」を受け入れるためには,相手についてよく知ることが必要になります.同じことはイノシシについても,シカについても言えます.時には殺し排除することも必要だけど,相手についてよく知り,共存の道を探ることが求められる時代だということです. 自然保護も同じこと.チェーンソーやブルドーザーで,力ずくで自然を排除して来た従来のやり方に代えて,できるだけ排除しないで共存する道を探さねばなりません.力ずくで排除するだけなら,相手のことをあまり知る必要はありませんでした.しかし共存の道を探るためには,相手についてよく知ることが必要になります.自然をよく知ることなくして自然保護はできません. その,「自然についてよく知る」ための公的機関が「自然史博物館」です.この21世紀,日本人は,自然に対する知識を急速に蓄積して行かねばならないでしょう.そのために自然史博物館を活用する必要があります.自然史博物館が果たすべき役割は,じつは非常に大きいのだ,というのが私の主張です.