「鉄腕アトム」の時代
本日も雑談です. 鉄腕アトムは10万馬力である.動力源は原子力だろう.「アトム」という名前からしても,妹の名前「ウランちゃん」からしても,まず間違いない.核分裂を利用した原子力である. 計算は苦手であるが,ざくっと計算してみる.「馬力」の定義が問題だけど,1馬力=750W としておこう.いや,これも面倒なので,思いっきりアバウトに徹することにして,1馬力=1kW としよう. 手始めに,手元にある「スバル・レガシー」のパンフレットを見る.エンジンの最大出力は170PS / 5,600rpm となっている.「 / 」(スラッシュ)を「割り算」だと考えてはいけない.これはクルマの場合の慣用的な表記で,最大出力(170馬力)は,エンジンの回転数が5,600rpm のとき達成されるという意味.ついでに,「rpm」は「1分間の回転数」を示す単位.それと,「馬力」は英語では horse power だから HP と書けば良いようなものだけど,なぜかドイツ語 Pferdestarke が採用されている. とにかくクルマの出力は100馬力=100kW 程度である(ざくっと行きましょう).いま研究されている燃料電池車は,大体この程度の電気を作ればよいということになる.「鉄腕アトム」を動かすには車搭載のエンジンないし燃料電池が,アバウト1,000個必要という計算になる. 原子力ならどうか? ウィキペディアによると2008年1月現在,日本の原子力発電は55基が稼働していて,合計出力は49,467MW(メガワット)である.単純に割り算すると,1基あたり900MW,つまり900,000kWである.これも面倒だから 1,000,000kWとしよう.ざくっと換算すると,原発1基がアバウト100万馬力である. 原子炉を積載して動く機械としては原子力潜水艦(原潜)がある.ウィキを見ると,シーウルフ級原潜が52,000shp,バージニア級原潜が 40,000shp と書いてある.この単位,shpとは shaft horsepower のことで,船のスクリューに供給されるエネルギーだそうです.よく分らないけれど,とにかく原潜はアバウト数万馬力のパワーで動いているらしい. だとすると,「鉄腕アトム」の小ささで10万馬力を実現するには,まだまだ技術的・現実的な問題があるらしい.しかし想定しうる動力源としては,やはり原子力が最有力の候補である. 話のついでに風力発電についてもチェックしておこう.ウィキペディアを見ると,風車1基あたり 2.5MWとか5MW(メガワット)という数値が出ている(意外に大きい).つまり2500~5000kWである. また日本国内で2007年3月時点で風力発電は約1400基,総設備容量は約168万kW だそうだ.割り算をすれば168万÷1400で,風車1基あたり1200kW という数値になる. まとめると,要するに 1200~5000kW というところである.つまり(ざくっと行って)アバウト1200~5000馬力である.10万馬力を得るには風車20基~80基が必要という計算になる.以上,私の勘違いの可能性もあるので,自分でチェックしてみてください. 私は電力会社の回し者ではないし,「原発は安全だ」などという冗談に付合う気もない.ただ,エネルギーの供給を重視する人たちには,原発は非常に魅力的な選択肢にちがいない.一方,原発をやめて人と環境に優しいエネルギーを目指すには,それなりの覚悟が必要だということでもある. 「鉄腕アトム」が作られた時代は,原爆の怖さが実感されると同時に,原子力の「平和利用」が肯定的に理解されていた時代であった.そういう時代に「鉄腕アトム」は,おそらく原子炉内蔵型ロボットとして考案された.手塚治虫は 10万馬力という出力を,それなりに根拠のある数値として設定したのだろう. しかし,今われわれが考えねばならないことは,アトムの体内で必然的に産生蓄積される放射性廃棄物を,どのように処理廃棄できるかという問題である.時代の申し子であった「鉄腕アトム」が,じつは放射能をまき散らすモンスターだったなどという物語は,あまりに悲しい.