百貨店や商社のブランド争奪戦が激しさを増している。海外の新ブランドをいち早く発掘し、ライバルとの差別化を狙う百貨店。一方で商社は海外ブランドそのものを買収し、世界で収益を上げる戦略だ。ブランドビジネスの最前線はNY。新進デザイナーが次々と登場してブランドの宝庫と言われ、世界中からバイヤーが集まるからだ。NYで新ブランドを探す百貨店バイヤーの9ヵ月間に密着するとともに、買収ブランドの担当としてNYで奮闘する商社マンを通じて、ブランドビジネスの熱い舞台裏を紹介する。
三越「独自ブランドで差別化」
業績低迷が止まらない三越。4月1日に迫った伊勢丹との統合以外に再生の道がないとも言われる。しかし三越の中で売り上げが順調に伸びている売場があった。三越が「重点売場」と名づけ、最も力を入れる「ニューヨーク・ランウェイ」だ。90年代にわずか数坪でスタートした売場は、今や全国に広がり年商24億円にまで成長した。
成功のカギは、三越が独自に発掘したNYブランドを中心とした品揃えで、ライバルの百貨店との差別化に成功したことだ。統括責任者の小林文子(38歳)は「どこにでもあるブランドはつまらない。ここには何かないか探しに来る客が多い」と話す。新ブランド発掘には地道な努力があった。毎月NYで主要百貨店の売場でブランドの変遷を調べて、新ブランドを把握。ブランド探しだけでなく、米国流の経営スタイルも研究し、昨年夏には百貨店初の「ニューヨーク・ランウェイ」アウトレットをオープンさせた。
ブランド発掘の山場は、2月と9月に開催されるNYファッションショーだ。ショーはいわば商品の発表会。客席には米国を始め世界中のバイヤーが並ぶ。小林はわずか1週間のNY滞在で、数か月分の服をまとめて買い付ける。しかしそこには日本の百貨店やセレクトショップなど、ライバルたちが勢ぞろいしていた。ユーロ高で割高な欧州ブランドより、NYブランドの関心がより高まっているからだ。
果たして小林は、売れる新ブランドを発掘できるのか。昨年夏から始まった小林の新ブランド探しに、3月まで密着した。
新進デザイナー「ニッポン市場を狙え」
三越の小林らバイヤーが新ブランドを発掘に来る一方で、NYの新進デザイナーたちもブランド拡大を狙っていた。特にブランド大国ニッポンは米国に次ぐ有力な市場。日本進出を希望するブランドは多い。
アレキサンダー・ワン(23歳)は今最もNYで注目される新進デザイナーだ。ブランド拡大を目指し、昨年9月に初めて正式なファッション・ショーを開いた。洋服作りの現場から、世界のモデルが集まったモデル・オーディションそしてファッション・ショー本番を取材。ブランドの将来性を表すかのように、ショーには三越や伊勢丹を始め多くの日本人が詰め掛け、舞台裏では資生堂が早くも化粧品を無償で提供していた。そんなワンのショールームに、三越のバイヤー、小林たちが現れる。商談は成立するか‥。
伊藤忠「ブランド買収で世界を狙う」
伊藤忠の繊維部門はアルマーニやハンティング・ワールド、コンバースなど140ブランドを取り扱い、今や日本のブランドビジネスで右に出るものがいないと言われる。
その伊藤忠が一昨年買収したのが米国のバッグブランド「レスポートサック」だ。買収交渉は3年越し。バーニーズ買収のファースト・リテイリングのように、最後は投資ファンドと一騎打ちとなった末、伊藤忠が買収に成功した。世界で年間500万個を売り、単一ブランドの販売個数としては最大規模で、日本人女性の人気も高い。
伊藤忠が世界的ブランドのオペレーションを手がけるのは初めて。そこでNYにレスポートサック課を設置し、秋吉崇(37歳)ら3人を派遣した。「当初は会議すら開けなかった」とレスポ側との摩擦を打ち明ける秋吉。しかしレスポに日参し信頼関係を築いた秋吉らの奮闘で、レスポの運営は軌道に乗った。伊藤忠は高級化路線でブランド価値を高めるとともに、未開の巨大市場、中国へ進出を決断した。
伊藤忠はレスポートサックの経験を踏まえて、第2、第3のブランド買収を狙うという。
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最終更新日
2008.03.25 19:45:33