噂話を検証してみた (労災関係)
震災後、複数の知人から聞いたウワサ話がある。それは、「首都圏では、警察発表よりも、もっと多くの人が震災によって亡くなった」という話だ。(ちなみに、警察発表では、東京都で7名)より具体的な話だと、「スカイツリー建設現場で、作業員が何人か転落死したらしい」というもの。ちなみに、スカイツリー広報では、「作業員全員の無事、構造体への被害はないことを確認致しました。」と発表している。根も葉もない噂だとしたら悪趣味だと思うが、こういう噂話をする人に対して、「それはデマでしょ」と真向否定することは、人間関係上なかなか難しいので、敢えて、ウワサが真実であると仮定して、「死者を隠匿した」理由と、実行の可能性を考えてみた。(1) 企業や建造物のイメージ低下を防ぐ為の隠匿例えば、スカイツリーなら、「人が落ちるほど揺れた」とか、「作業員が何人も死んだ」とかいうことで、建物自体の信頼性や、輝かしいイメージが下がるのは必至。しかし、だからと言って、作業中の労働者が死んだことを隠すとしたら、必然的に「労災隠し」につながり、バレたら、却って企業のイメージダウンだ。遺族に多額の慰謝料を払って口止めするってのも、弁護士や社会保険労務士が溢れている昨今、そんなの、危なっかしくてやってられない、と思うのだが…。死傷した作業員が、知識の薄い日雇い労働者とか (建設現場では、あながち少なくはない)だったら、「日雇いには労災は出ないよ」などとデタラメ言って労災隠しをする悪徳業者はいるかもしれないが、そもそも、「地震による死者」であることを警察に知られないようにすることが可能だろうか?特に、スカイツリーほどの有名現場となると、最も「口封じ」しにくいのは、救急隊員だろう。救急車も呼ばず、現場に死体を埋めちゃったなら別だが…(もはや、巨悪犯罪の域だ)。(2) 確実な労災認定をねらっての虚偽申告5年程前、北海道で、トンネル工事の為の建設会社の仮設事務所が竜巻の直撃に遭い、9名が死亡するという痛ましい事故があった。この頃、私は、社会保険労務士の受験勉強をしていたのだが、予備校の講師が、「これは自然災害による事故なので、労災が認定されない可能性が高い」と言ったのを覚えている。(実際には、業務起因性が認められ、認定されている)※ 参考 「竜巻災害で労災認定」http://anzenmon.jp/vizwik/app/view_page_printable.html;jsessionid=55922190B3788593FB6B4BADE594281B?id=352509そこで、私が考えたのは、「地震が原因で死んだとすると労災が認定されないかもしれない」から、咄嗟に、「‘地震による死者’としては報告せず、何か、他の理由をつけて死亡の報告をし、労災申請した」可能性だ。つまり、事業主や労務担当者が、確実に労災が認定されるよう、「親切心」で虚偽報告した、という説。(労災が認定されるかどうかで、遺族に対する補償には雲泥の差が生じる)ビルの建設現場などでは、作業員が本人の過失で転落死することは、別に珍しいことではない。 地震の数分前に転落した、と申請すれば、医学的にはごまかせるだろう。…が、企業が、そこまで労働者の利益を慮るかというとかなり疑問だ。万一、嘘がバレたら、刑事責任を問われないとも限らないのに。まあ、「労災認定」と「建造物のイメージ維持」と一挙両得を考えたなら、可能性がなくもないが、あの震災のゴタゴタの最中に、そこまで考えられる事業主(現場責任者)がいるだろうか?しかも、無名の工事現場ならともかく、スカイツリーのような衆目の集まる現場で、複数の事故死者の発生を 「地震以外が原因である」として、ごまかし通せるとは、とても考えられない。ちなみに、阪神大震災や今回の東日本大震災の後、厚労省は、「仕事中に今回の震災で死傷した場合は、原則として労災認定する」という指針を出している。http://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/roudoujouken.html(3) 警察による「震災死亡者数の数え方」の問題そもそも、「震災で死亡した」とカウントされるのは、どういう場合なのか…という問題。「交通事故死者数統計には、事故後24時間経過後の死亡者は含まれない」…という有名な話があるが、ひょっとして、「地震(津波)発生から○分以内のケガに限る」とか、もっと厳しい基準があるとか…?若しくは、転落死した場合でも、「揺れが原因かどうか」因果関係がハッキリしない場合はカウントしない、とか。しかし、直後の報道では、「逃げようとして慌てて転んで亡くなった」とかいう報告もあったような気がする。どっちかというと、前後に死亡した人は何でもかんでも 「犠牲者」としてカウントされる印象の方が強いのだが。まあ、警察には、何につけても管内の「事故や犯罪の死者数」を抑えたい欲求(競争意識?)があるようなので、案外、これが真実だったりして…。…と、乏しい知識で色々考えてみたが、結局のところ、「知人の話は多分、デマだろう」というのが私の正直な結論だ…。【送料無料】労働災害・通勤災害のことならこの1冊改訂2版価格:1,785円(税込、送料別)