雪白の月

★ 『 やじるし 』　はらだ　（2014年）



電子書籍にて全1巻読了。


久々の BL漫画紹介。刺激が強い作品なので、日記に書くのは躊躇していたが、この作家さんが最近被害にあったという編集トラブルが余りに酷いので、その件と併せて書くことにした （トラブルの件は、後半に）。


本来、少女漫画好きな私だが、最近の少女漫画が余りに無駄にダラダラと長く、イライラさせられるものが多いので、たまにスッキリ完結する BL短編集を読むと、逆に癒やされる。


ただ、この作品の前シリーズ 『変愛』 （2013年） が、有害図書指定されたらしく、Amazon で取り扱い中止されている （他で入手は可能） ことからも察せられるだろうが、かなり過激な描写を得意とする作家さんであることは事実だ。

この 『やじるし』 も、電子書籍では 「白抜き」 修正されているものの、シチュエーション自体が、相当えげつない （虐待や犯罪に近い） ものばかりなので、未成年には薦められない。


それでも、この方の作品は、人間の 「歪んだ愛」 の形を端的に表していて、一つ一つの話に、久しぶりにショックに近いものを感じてしまった。


特に、幼い頃の交通事故が原因で 片足が不自由になった青年と、彼を支える幼なじみとの関係を描いた 『ひきずる音』 は、これ以上ない位、 「偏執的」 で 「悲劇的」 でありながら、同時に、 「一途」 で 「切実」 な愛の形と捉えられなくもなく、行く末を想うと切ない。

「BLで無かったら」、 「性描写がもう少しソフトなら」、万人に薦めたくなる作品だが、過激な性描写によってこそ、この短い頁数 （42頁） で、２人の尋常ならざる関係性を的確に表現することが出来たのかもしれない、…とも思える。


これまで、レイプや虐待など、余りに過激な描写の多い作品には苦言を呈することもあったので、「一貫性がない」 と言われそうだが、ストーリーに与える効果が確かであるなら、全否定するつもりはない。

子供向けの商業誌で、 「イケメンにレイプされて喜ぶバカ女」 の話 を垂れ流すのとは、質的にも、一緒くたには出来ない。


ただ、この作品集が BLではなく、「男と女」 の設定だったら、全く同じストーリーでも、やはり、不快感の方が先立ってしまうかもしれないな、とも思う。

勿論、男同士でもレイプや虐待は許されない行為だが、男女の体力差や、現実社会での被害発生率や深刻さを考えると、男女設定では 「フィクションにしても、シャレにならない」 ものになりかねない。


その辺含めて、BLの 「欺瞞性」 と 「中毒性」 について、また機会があれば書きたいと思うが、今回、わざわざ、この作品を取り上げたのは、冒頭でも触れた通り、この作家さんに関して 驚くようなツイッター記事を目にしたからだ。


詳しくは、はらだ氏ご本人のツイート （2015.10.9.付） にあり、ここでは詳細まで書かないが、要するに 「某出版社編集部に、過去の同人作品を 無断でスキャン・改変され、商業誌に掲載された」 という話なのだが、その経緯が、ご本人の説明通りだとすると、ホントにヒドい。

当該出版社は、BL界ではかなり有名な会社だが、一編集者の独断だとしても、前近代的な違法行為、としか言いようがない。


仮に、似たようなことを 大手出版社の有名少年誌の編集者がやらかしたとしたら、何万というファンが騒ぎ立て、かなりの大問題になっているだろうが、もしかして、余り 「堂々と表には出にくい」 であろうBL作家やそのファンの弱み （内容がエロというだけでなく、二次創作などでも非難されがち） につけ込んで、こういう行為が確信犯的に行われているのだとしたら、ちょっと許し難い。

まー 私の経験上でも、中小の出版社や編集関係って、いい加減な人が混じってる確率が高い気がするので、細かいことで泣き寝入りしてる作家さんは、案外、多いのかもしれないな。



※ 追記（2015．10.13．）

当該出版社は、この不祥事について全面的に非を認め、はらだ氏への謝罪、掲載誌の回収、担当編集者の懲戒解雇、社長以下関係者の処分 等々の対策を講じた模様。 　（出版社公式HPより）




＜関係日記＞
2012．4.16．　切ない恋とSM心理と・・・ よしながふみ 『 執事の分際 』

2012．5.14．　強くオススメ はできませんが　・・・ よしながふみ の BL 作品

2014．12.10．　文学性を追求したつもりでも 読者に伝わらなければ、ただのポルノ ・・・ 葉月京 『 CROSS and CRIME 』

2015．1.26．　子供にも大人にも読ませたくない少女漫画 ・・・ 青木琴美 『 僕は妹に恋をする 』 ほか

2015．3.3．　男性読者に分かるのか？ 性暴力被害者の痛みの正体 ・・・ 鳥飼茜 『 先生の白い嘘 』

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