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カテゴリ:アンタルヤの四季
【PASTIRMA YAZI】 ―秋の最後に見られる暑い日々
([ARKADAŞ TÜRKÇE SÖZLÜK] 第4版より) いわゆる「小春日和」である 今日はひどく暑い一日だった。 朝のうちは、空全体が雲に覆われ、雨でも降りそうな湿った空気が澱んでいた。 次第に空が開け、太陽が顔を覗かせる頃、夏が戻ったような熱風が吹き始めた。 今日は、娘たちふたりを連れて、町中に子供服を買いに出る予定だった。 先日、娘たちの夏物と秋物を入れ替え、上の娘には窮屈になってしまった服を下の娘の引き出しに仕舞ったまでは良かったのだが、お気に入りだったTシャツもスカートも全部妹のものになり、自分の引き出しに大きな空間ができたのを見て、上の娘は激しく泣き出した。 そろそろ秋物を買い足さないといけない頃だな~と、前々から考えていたこともあり、「今度の土曜日に買ってあげるから」と約束したのだった。 朝9時過ぎ、電話のベルが鳴った。2週間振りくらいになる友人からの電話だった。 「今日、Y(彼女の娘)の誕生日パーティーに来てくれるんでしょう?」 誕生日パーティーとは、まったくの初耳だった。 「ええ?今日なの?」 「Yが、Aちゃん(うちの娘)に学校で伝えたはずだけど・・・。Yに聞いたら、伝えたよ、って言ってたから安心してたのに」 「本当?Aは何も教えてくれなかったから・・・」 「何か、都合がある?」 「ううん、大丈夫。来週にまわすから。行かせてもらうわ」 そういって受話器を置いた。 上の娘に問いただすと、何も聞いてないという。子供のことだし、どちらかが忘れたか、忘れたのを隠しているかのどちらかだろう。いずれにしても、買い物は来週にして、今日の外出は誕生日パーティーに変更になった。 お昼前に子供たちを連れて、誕生日のプレゼントを買いに、近所のミグロス・ショッピングセンターに出掛けた。子供服の店や小さいデパートを何軒かはしごし、バービー・ブランドの小さいパーティーバッグを買い求めた。今時の女の子の例に漏れず、Yちゃんもピンク色やバービー、シンディなどのキャラクター・グッズが大好きだったから、これなら気に入ってもらえそうだった。 外は、ジリジリと照りつける日差しに、立ち上る熱気。まるで夏が復活したような陽気だった。 昨日の新聞の天気予報欄で、「この週末は、パストゥルマの夏(=小春日和)になる」と読んだが、天気予報通りになったわけだ。 誕生日パーティーの会場は、友人一家がよく使う、ビーチパーク内のカフェ・レストラン『SAV Beach』である。 友人のご主人と、ここのオーナーが同級生だったというよしみもあるが、庭には子供用の遊び場が設けられ、朝食のオープン・ビュッフェも充実していて、休日の朝ともなると、友人一家はここで朝食を取ることが多かった。私たちも、もちろん誘われて来たことがある。 昨年のパーティーも同じカフェ・レストランだったし、名前も覚えているので、私たちはタクシーに乗り込むと、ビーチパークということと、そのカフェの場所を運転手に教えた。 カフェの庭に点々と設けられたスィッティング・スペースのひとつに、友人一家とすでに何人かの客人が来ていた。一応、午後2時からと告げられていたが、例によって、時間通りにやってくる人の方が少ないのだ。 ユーカリの大木があちらこちらに陰を落とすカフェの庭はなかなか心地良かったが、太陽が傾くにつれ、樹々の隙間から差し込む日差しが容赦なく私たちの身体を焼いた。 私は、タンクトップの上から念のため7分袖のシャツを羽織っていたが、とても着ていられず、シャツを脱いでタンクトップ一枚になった。 コンヤアルトゥ海岸に面したビーチパークでは、夏も終わり、閉じられたビーチパラソルばかり目立つようになる頃、涼しいどころか寒いほどの海風が吹くことがあるのに、今日はそよとも吹く様子がなかった。 少し経つと、ガルソン(ボーイ)が飲み物の注文にやって来た。 昨日15日からラマザン(断食月)が始まり、アンタルヤでも、多くの人が早速オルチ(断食)を実行しているはずだが、ここビーチパークは、アンタルヤでも最も「イン」な場所のひとつである。ここに遊びにやって来る人で、オルチを守っている人など、いるわけがなかった。 招待されているのはほとんど、娘たちと同じコレジ(私立学校)の3年生になるYちゃんの、同級生と親御さん(母親)。 コレジに子供を通わせている親御さんたちの中には、カパル(頭にスカーフを被った)の人もいないではなかったが、少数派だ。 ほとんどの母親はアチュック(頭に被り物をしない)だし、むしろ露出度の高いお母さん方も珍しくない。 学校の送り迎えや父兄懇談会に、ボディ・コンシャスなミニドレスだとか、へそ出しTシャツとか、胸元の大きく開いたスリップドレスなどを着てくる人がわんさかいるのだ。 今日出席しているお母さん方も、露出度こそ普通だったが、典型的なアチュックの女性たちだった。 それぞれに、チャイやコーラなどの注文を終えると、煙草に火をつけ、おしゃべりに戻っていった。 「オルチを守っているの?」 私は、左隣に腰掛けた友人に聞いてみた。 「昨日一日だけ。今日はできないけど・・・」 すでに私にも顔見知りの友人のコムシュ(隣人)が、私の右隣に座ったので同様に尋ねてみた。 「去年は少しやったけれど、今年はまだ・・・」 そんな答えだった。 アチュックの女性たちは、条件(病気や生理中、妊娠などの事情があれば、しなくていいことになっている)が揃えば始めてみて、途中で続かなくなったら、止める。その程度の「柔軟な」ムスリムなのである。 誕生日パーティーといっても、食事は出ない。 出されたのはクラビエ(トルコ風のクッキー)、シガラ・ボレイ(ユフカという皮の中に白チーズを入れ、タバコ状に細く巻いて油で揚げたもの)、フライドポテト。そして、バースデーケーキが後で切り分けられる。 飲み物は、各自好きなものを注文する。 見ていると、ラマザンどこ吹く風。皆、盛んにおつまみに手を伸ばし、チャイをお代わりし、タバコの煙をくゆらせていた。 オルチを守っている人が、真昼間の誕生パーティーに顔を出すわけもなかったが。 午後4時半を過ぎると、三々五々帰る人が出始め、私たちも近くに住む人の車に乗せてもらって家路についた。 強烈な西日がフロントグラスに照りつけ、開いた窓からはまだまだ熱風が吹き込んでいた。 * * * * * * * * * ところで、「パストゥルマ」とはなんぞや? 【PASTIRMA】 ―大きな塊の状態で切り分けられた肉の表面に、クミン(セリ科の植物から採った種) の粉末、赤唐辛子、つぶしたニンニク、塩を混ぜたペーストを塗り、 日干し、あるいは燻製にした食品 ([ARKADAŞ TÜRKÇE SÖZLÜK] 第4版より) 干し肉、燻製の一種である。 ちなみに、独特の匂いと味、塩気があり、私はあまり得意でない。 いまだ冷蔵の技術のなかった時代。来るべき冬に備え、秋の最後にぶり返す強い日差しと吹き付ける熱風を利用して、新鮮な肉を干し肉に加工していた(だろう)ことに由来するのだろうか? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2004/11/03 05:28:32 AM
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