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テーマ:海外での「家」作り(67)
カテゴリ:トルコで建物づくり
シナンの仕事をいくらと見積もるか。 夫に相談すると、ネジャットに電話して聞いてみろという。シナンとの賃金交渉も彼にさせろと。 アンカラの自宅と本来の自分の仕事に戻ったネジャットに久し振りに電話し、早速相談してみる。 1日ひとり40(YTL)として、それ掛ける人数×日数。3人で2日とすれば、280。3日でも360だから、いずれにしても800は高すぎる、吹っかけすぎだという。 「やっぱり思ったとおり」と安心した私は、シナンとの交渉を依頼する前に、近況を尋ねた。 ネジャットは疲れた声で最近の状況を説明してくれる。 首相官邸のコングレスホールかなにかの仕事が入ればアンカラに残るが、それが入らなければ、イラクに行くことになると。 ネジャットのイラク行きは家族・親戚のほとんどが反対していたが、どうしてもネジャットにやって欲しいと、遠縁かつ長年世話になっている建築請負人が、これも親戚筋を介して強硬なオファーをしてきたので、どうにも断りきれなかったのである。 いったんイラク入りすれば、6ヶ月はイラクに留まって働き続けることになるという。 私は、つまらないことでネジャットの手を煩わせる気にもなれず、「気をつけてね」と声をかけるのが精一杯だった。 今度は、ハカン親方に電話をしてみた。 「親方。シナンの言う数字をどう思う?私は2倍くらい高く言ってると思うんだけど。 だって、1日40として・・・」 「45だねえ」 「そう?45として3人で2日なら大体300、3日でも400でしょ? 私なら500以上は絶対しないと思うけど?」 「400は安いね。500ならいい。シナンと話してみなよ」 「そうするわ」 私は、友達が来たというシナンからの連絡を午後4時頃まで待っていた。 この待ち合わせがあったから、どこにも出掛けず、自宅待機していたのである。 痺れを切らしてシナンに電話。 「友達?来たよ」 「来たの?じゃあ、私もこれから現場に向かうから」 「ああ、でもまだ道の途中だから、到着したら連絡するから」 「でも、来たんでしょ?近くまで来てるんじゃないの?」 「ああ、とにかく着いたら連絡するさ」 私は、シナンの言った「来たよ」という言葉を鵜呑みにして、「道の途中」といったこともあまり気にしていなかった。「来た」のだから、とっくにアンタルヤ市内に入っているものと思い込んでいた。 もしその友達とやらが来なさそうだったら、ハカン親方を呼び出して自分たちで塗装材料屋に行けばいい。 私はとにかく、こちらの方も早いところ片付けて、ゆっくりと休みを取りたかったのである。今日中に片付けてしまうぞ~!その意気込みだけが空回りしていた。 午後4時半過ぎ、現場に到着。 またしても、シナンも、シナンの友達とやらも、猫の子1匹たりといない。 シナンに電話してみる。 「まだ途中みたいでさあ。着いたらとにかく連絡するから」 それから約1時間。工事日誌を書いたり、建物のあちこちをためつすがめつしながら現場に留まったが、車の音もしない。連絡さえ来ない。 もう一度痺れを切らしてシナンに掛ける。 「イェンゲ。申し訳ない。ようやくアンタルヤの入り口に差し掛かったところだっていうんだ。今日はもう間に合わないからさあ、待たなくていいから」 職人たちにフラれるのにはとうに慣れている私だが、一言言っておかないと気が済まない。 「あなた。さっき、「来た」って言わなかった?「来た」って言ったから、現場で待ってるのに、遅くなりそうだったらもっと早く言わないと、無駄に待ったじゃないの」 「イェンゲ。申し訳ない。塗装屋には明日、友達に連れて行かせるからさあ」 午後5時半過ぎ。今からハカン親方を呼び出して塗装屋を回ったら、自宅に帰るのが相当遅くなる。 私は諦めて自宅に戻った。 夕方、チャイムが鳴ってドアの外にカプジュ(マンションの共有部分の掃除や住人の御用聞きをする住み込み管理人)の姿を見たとき、胸が苦しくなった。 今月分の管理費50YTLを徴収しにやってきたからである。 今頃になって、シナンとハカン親方にそれぞれ50YTLも渡してしまったことを後悔した。 なぜなら、私の手元に残った全財産は、わずか70YTL(約6000円)となってしまったのだから。 これでは、もし美容室でカット&カラーリングなんてしたら、生活費すら残らなくなってしまう!せっかく連休がとれそうなのに、お金がなくて何もできないのか、私たち!? いまさらお金を返してくれとは言えないが、賃金交渉だけはしておかないとと、夜になってシナンに電話を掛けた。 「それで、結局友達は来たの?」 「ああ、来たよ」 「じゃあ、明日から仕事は始めるつもりね?」 「ああ」 「職人費なんだけどね。やっぱり750でも高いわよ。一体、何人で何日掛けてやるつもりなの?」 「イェンゲ。高くなんかないよ。ふたりか3人は必要だからさ。3人なら2~3日はかかるし、ふたりだったら3日か、4日でようやく終わるってところさ」 「ふ~~ん。3人で3日なら45かける9で405、ふたりで4日なら45かける8で360じゃあないの?」 「イェンゲ。最低2~3日は寝泊りしなくちゃいけないってえのに、昼飯だって夕飯だって食わせなくちゃいけないだろうが。 よかったら、ハカン親方に聞いてくれよ。彼なら分かるから」 「ハカン親方ねえ。彼も、高くても500だって言ってたわよ」 そういうと、シナンは明らかに慌てていた。やっぱり私が来るまでに、ハカン親方と口裏を合わせてたらしい。 「と、とにかく。アフメットさんによく言っといてくれ」 シナンとの会話を終えると、私はすぐにハカン親方にも電話した。 私「親方。明日は朝から現場に行ってくれるかしら?シナンが仕事を始めるって言ってるから。 で、始める前に職人費のこと、500以上は出せないからってシナンを説得してくれるかしら?それでできないのなら、他所から職人を連れてくるしかないって」 ハ「タマム(オーケー)。いくらでも職人はいるからさ」 私「聞いてくれる?「飯も食わせなくちゃいけないから」って言うのよ。飯代まで持たなくちゃいけないなんて、初めて聞いたわ」 ハ「そりゃあ、恥だ。だけど、持ってやるつもりなら俺に干渉する権利はないよ」 私「持つつもりはないわ。もし「飯」なんて言い出すなら、こちらは「家賃」って言う権利があるわ。でもそれじゃあ「恥」でしょ?」 だから、明朝はまずシナンと話をして、500で説得して欲しいの。それで嫌なら、他所に行ってもらうしかないって」 ハ「タッマム(オッケー)」 私「私は子供たちに約束したから、朝から海に連れて行くからね。現場に行くのは午後3時とか4時頃になると思うの。それからシナンの友達に塗装屋に連れて行ってもらうつもり」 ハ「タッマム。イェンゲ、あんたは現場に来るこたあないさ」 私はこの電話を終えて、ようやく一安心することができた。 明日はサンドイッチや冷水、コーヒーをポットに用意して、朝から海に繰り出そう。 午後から顔を出さなくちゃいけないのは仕方ないけど、午前中はハカン親方に任せてのんびりしようっと! この時点では、私はまだハカン親方を信用していた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005/11/03 05:25:53 AM
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