バックパッキング事始め
コリン・フレッチャーの「The Complete Walker」がアメリカで発表されたのが、1968年。邦訳版は、その改訂版「The New Complete Walker」が、上・下2巻で1977年に「遊歩大全」として刊行された。僕が本書と出会ったのは、1987年に全1巻としてまとめられ、再出版(森林書房刊)されたものだ。僕がバックパッキングに入門したのはそう古いことではない。今から15年位前だろうか。当時からアウトドアでの遊びにハマっていた僕だったが、あくまで「車」に依存したキャンプが中心だった。その中でアクティビティとしてのカヤック、フライフィッシング、トレッキングなんかを楽しんでいた。あるとき、沖縄の海でシーカヤックがしたい、という一心で旅に出た。飛行機を乗り継ぎ(当時北海道から沖縄の直行便はなかった様に思う)八重山の島へと向かった。現地での移動手段はバックパッキングスタイルしかない。大型のバックパックなど持ち合わせが無かったので、知り合いからの借り物だ。ザ・ノースフェースの容量80Lくらいの赤いバックパックだった。装備に関してはカヤックツーリングで使用していたものを流用。ある程度コンパクトにまとめたつもりだったが、借り物のバックパックには収まりきらずに、別に30L位のデイパックを用意、それをフロント装着するハメに。バックパックのサンドイッチ状態では歩きの旅を快適に過ごせるはずも無い。荷物に引きずられながらも、目的地に到着。ツアーガイドのもと、シーカヤックを楽しんだ。が、旅を続ける中で当初の目的だった「沖縄でシーカヤック」よりも、島を歩いたり、地元の人やキャンパーと話をしたり、バスの車窓に流れる景色をぼんやり眺めていることのほうが、楽しいってことに気づいた。そして、あまりに不必要なものを持ち歩いている事実を愚かに思い、もっと身軽になれば積極的に「歩く旅」が楽しめるのに!と感じた。それからというもの、歩く旅=バックパッキングの世界の虜になってしまったのだ。「The Complete Walker」は自然の中を自由に歩き回るために必要なテクニック、装備、そして精神に至るまで、これでもか、とばかり語りかけてくる、すべてのウォーカーの為のバイブルである。日々進歩する装備あれこれに関しては、古めかしく感じる点は仕方の無いことにせよ、バックパッキングに対する知識、楽しみ方、そして精神的な部分は衰えるどころか読むほどに輝きを増すばかりだ。2002年には最新版「The Complete Walker 4」としてアメリカで刊行されたという。(残念ながら邦訳版はない)コリン・フレッチャーという存在は現在進行形であり、今もなおバックパッキング界のゴットファーザーなのである。