君がいるから番外編 桜日和 前編
本編が進まない中、番外編を書いた感想を頂けると幸いです。BL小説です、興味ない方、嫌悪感を抱かれる方はご遠慮下さい。桜日和:前編暖かな春の日差しが満開の桜を鮮やかに映し出している。世間ではそんな祭日に花見の客が公園で騒ぎ、華やいだ空気を作り出していた。ここは藤野の部屋、外の騒ぎをよそに朝からバタバタと掃除をしている。これが彼の祭日の習慣だから仕方が無いと栢山が部屋の隅で小さくなって雑誌に目を通し、ニヤニヤしている。藤野はその姿をチラチラ気にしながら掃除機をかけている。「栢山、邪魔だ」「せ、先輩、なんですかぁ~も~手伝わなくていいって言うからここにいるのに」「だからと言ってなぜ、そこに居る!」掃除機のノズルで座っているクッションを突く。「俺はゴミじゃ有りません」「あっ、こんな所に大きなゴミがぁ~」吸い取り口を背中にくっ付け、吸引を最大にすると掃除機の方が悲鳴を上げた。「わ、分かりましたよ、降参です!」ニヤリと笑った藤野、栢山は眉間に皺を寄せると、雑誌を持ってベランダへと向かった。それを見た藤野は掃除機を一旦止てクローゼットを開くと片隅に仕舞いこんでいた折り畳み式のテーブルと椅子を取り出しベランダに置いた。「この方がいいだろ、それと灰皿」「せんぱぁ~い」情けない声で縋り付く栢山、それを振り払う藤野だったがそれを捉え、真面目な顔で抱き寄せて耳元で囁いた。「アンタ、良い嫁さんに成れますよ」無論、栢山は頭を叩かれ、掃除が終わるまで戸の鍵を掛けられて閉じ込められる羽目になったのは言うまでもない。しかし、それも愛情の現われと栢山は渡された一式を広げ、手にしたタバコに火を点けると燻らし雑誌に目を通す。その瞬間、春の風がザワリと吹き、公園の桜の花弁を運んで来たのか、ひとひらが雑誌の上に舞い降りた。一時間ほどしてガラリと戸が開いた。「栢山」優しい声が呼ぶ方へと顔を向け立ち上がると抱きついた。「済まない、寒かったか?」「先輩、ヘックション」「き、汚い、離れろ」「酷い、良い天気で良かったと思いましたけどね、流石にまだ寒いですね、それよりこの後は全部俺にくれるのでしょ」約束をしていた。部屋を片付けたら残りの時間は全て栢山に委ねるのだと、だから早く起きて栢山の来る時間を見越して掃除を始め、午前中に終わらせた。「ああ、好きにしろ」「甘やかして良いの?」「約束は守る」抱き寄せた体を押しやり部屋へと入ると後ろ手に戸を閉めてキスをする。「出掛けましょ、俺たちも花見しましょうよ」浮かれた声に藤野が嬉しそうに答えを返した。「だったらあそこがいい」「ええ、いいですよ、貴方が望むのなら俺は何処までも行きますよ、二人に成れるしね」いつか行った桜,手入れをする人は居るらしいが訪れる人はほとんどいないと思われる場所でひっそりと咲き誇る老木の姿が印象的だった。今年も元気に咲いているだろうかと藤野は思った。「早速、行きましょう」「行きましょうって。。。どうやって?」栢山がジーンズのポケットからジャラリとキーを取り出して目の前で揺らしてみせる。「借りちゃいました」「まさか。。。」「流石にワインレッドじゃ目立ち過ぎですからね、それに貴方が妬くでしょ、だから普通のセダン借りました」ほっとした表情を嬉しそうに見つめながら準備を進める。ジーンズに白いシャツ、そしてパーカーといったラフな格好、栢山はトレーナーにメジャーリーグのブルゾンを着ていた。「お前、そのチームのファンだったか?」「だって俺の好きな選手が移籍しちゃったので、赤も似合うでしょ」普段、モノトーンの多い栢山が赤を着ている、似合うといえば似合うのだが見慣れない所為か違和感が有った。2人で乗り込む車、前回のコンバーチブルよりも中が広い、あれはあれで悪くは無かったのがワインレッドと言うのが気に入らなかった。ただでさえ目立つ上に栢山の容姿が目を引き、言われた通り嫉妬している自分に腹が立って来るのだった。「お昼は例の蕎麦屋で?」「うん」「先輩あそこお気に入りですもんね、倉本さんにも教えたのでしょ」「駄目だったか?」「いいえ、貴方が喜んでくれるのならば、それにあの人も喜んでましたしね」すっと細められる瞳に満足そうな顔を向ける栢山、倉本のことは認めているのだが、藤野が自分に黙って教えていた事が面白くない、そんな自分の了見狭さに嫌悪感を覚える。車窓から見える街は桜が咲き、祭日の花見客で賑わっていたが少し街を離れると、人は減り始め知る人ぞ知る田舎の蕎麦屋だけが繁盛していた。「相変わらずですね」「こんなもんだろ、待つからよけいに旨いんだ、それに急ぐ訳でも無いからな、丁度いい」終始ニコヤカな藤野に今度は栢山の目が細くなる。一時間ほど待ってテーブルが開く、以前と変らない店内、愛想のあまり良く無い店員が注文を聞く、頼んだのはざる蕎麦、厨房は大忙しの様子で聞こえてくる店員声が活気を呼んでいた。「繁盛ですね」「ああ、見てるのが楽しい」しばらくして運ばれ来たざる蕎麦に箸をつける、この忙しいのに変らない味が二人の舌をうならせる。会話は無い、それがこの蕎麦の旨さを伝えていた。列の客の視線を浴びる中、優越感で店を出る、二人で顔を見合わせて笑顔を隠すように笑った。長い道のり、車内では栢山選の曲が流れ始め、3、4曲流れたところで気付いたのは全て桜がテーマだということ、この日の為に作ったのだろう、こんなところが栢山らしいと思うのだった。「栢山、桜って良いな」「どうしちゃったんですか、曲に感化されちゃいました?」「日本人の心の花だなって思っただけだ」ちょっとすねた表情で窓の外を見る、山には緑の中にピンクが映えている、それを見るだけでも心が和むようだった。山道を抜ける、人通りどころかすれ違う車もない、だから穴場なのだろうが、あのような大きな桜を見る人が居ないのは寂しい気もするし、桜の為には多くの人が大挙するよりは良いのかとも思う。「あれ、先輩、何を物思いに耽ってるんですか?」「いや、何も。。。」「そう?景色に飽きてきたんじゃないですか、緑ばかりだし」「そんなことも無い、同じ緑でも種類が豊富だし、景観も微妙に違うから楽しいぞ、それよりもお前の方が疲れたんじゃないのか?」「いいえ、俺はこの空間が好きだから、アンタといっしょだしね、それに坂道登ったら直ぐでしから」いわれてみれば先程から登っている、木々の間から覗く風景は地上から遠ざかって見えていた。</font>にほんブログ村