DHHUその10
DHHUその10ケンのパーティー勇者(サモナー型):ケン戦士:ラーニー僧侶:アンディ魔術師:ネスター ケン、戦士ラーニー、僧侶アンディ、魔術師ネスターの4人は鴨川の近くにある会員専用焼肉店に通されていた。「おい、センジョー。こんな所に呼んでどういうつもりなんだ?」 ケンが言った。目の前には張り付いた営業スマイルのビジネススーツ女。「私(わたくし)センジョーグループ広報担当の紅 葉茄(くれないはな)と申します。ここでお待ちくださいシーア財団勇者御一行様」 一礼すると部屋から出ていく紅。「あの女、人間じゃないな。恐ろしく巧い魔力隠蔽、オレじゃなきゃ見逃しちゃうね」 アンディが言った。「ケツがいいなあの女。人間じゃなくても全然いける」 ネスターは早速椅子に座って背もたれに体重を預ける。「殺気は感じませんでしたね。それにしてもこの店他に人の気配が殆どしないのが不可解です」 ラーニーは指の関節を鳴らしながら言った。「協力者が来るって話だけど……誰とは聞いてないな」 ケンはカードを触りながら部屋の壁にもたれて言った。 ――数分後。 再び紅が現れた。「勇者御一行の皆さま、お連れしました」 続いて現れたのはクラシカルなビジネススーツを着た長身の金髪男性、それと細かく丁寧に刺繍が施された漆黒のワンピースを着た少女。「……」 漆黒ワンピースの少女の目力の強さに言葉が出ない勇者一行。「私は黒谷ジークベルト」 胸に手を当てて静かに言う男。「黒谷月だ……」 少女は射貫くような視線で圧をかけながら通る声で言った。「かけるがいい、話はそれからだ」 ケンより年下に見える黒谷月が言い放った。 左右に分かれてテーブルを囲んで席に着く。 ケンは黒谷月の洗練された一挙一動から目を離せなかった。「(なんだあいつは……)」 「紅さん、進行をお願いします」 ジークベルトが言った。「では始めます……シーア財団の追う【凶】の残党が真邪王の邪眼を持って京都に潜伏しているとの事。勇者御一行は事態が大きくなる前に京都のエクレシアとセンジョーと協力しこれを早期解決したいという話ですね」 壁に資料を映し出す紅。「センジョー側は紅さん、この私、黒谷ジークベルト、月様が代表として話を聞きに来ました」 ジークベルトが言った。「【凶】の事は知っている。勇者セイの事もな。だから手短に話せ。我らに何をさせたいのかしてほしいのかを」 全員を見つめながら月が言った。「え……と」 言葉が出てこないケン。「いやいやいや~空気悪すぎでしょ! 紅サン、それにジークベルトサンに月チャン。 もちっと楽に話しましょうぜ楽~に! ふざけるつもりはねーけどこんなもん話する空気じゃないっしょ」アンディが言った。「そうそう! とりあえず酒頼もうよ酒! 紅ちゃん注いでくれる? 月ちゃんはジュースでも飲むかい?」 ネスターが言った。「やめないか二人とも! 月……様の殺気に気がつかないのか!!」 ラーニーが言った。「今の我は只の黒谷月。ある程度の事は我慢しよう、だが限度はあるぞ」 月の瞳は血液のように濃紅に濡れている。「【凶】の持ってる邪眼のせいで! き、危険が及ぶんだ! 君のような強力な妖が特に!!」 絞り出すような声で叫ぶケン。「何?説明してみろ童」 月は静かに言った。 ケンは資料を見せながら時々ラーニー、アンディ、ネスターに助けてもらいながら必死に真邪王の邪眼の危険性について説明した。「……成程な。【凶】の真邪王の邪眼についてはそこまで知らなかった。では見つけ次第ジンガを始末してお前たちに邪眼を渡してやる、それで良いか?」「本当に気を付けなきゃ駄目なんだ……君がジンガより強くても真邪王は侮ってはいけない。この世で最も邪悪な存在だから!」 ケンは汗だくになりながら必死に月と目を合わせて言った。「よく解った。お前の必死の訴え、心に留めておこう。その表情、セイによく似ているな」「え……俺が父さんに似てる?」「ああ」 ケンは月の一言にこみ上げるものがあった。「よろしいでしょうか?」 紅が言った。「シーア財団は我々センジョーグループと業務契約という形になりますが、こちらの書類に目を通し問題が無ければサインをお願いします」 そこには報酬に現金とシーア財団の持つアーティファクトを要求すると書かれていた。「これは……流石に俺の一存では決められない。一旦財団に話を持って帰ってもいいかな?」 ケンが言った。「構いませんがこの書類の持ちだしはお断り致します。」 「話を持って帰っても良いのですがその間に身に降りかかる火の粉を払い我々がジンガを始末した場合は必ず書かれた報酬は頂きますよ?」 ジークベルトが言った。「待て、そんなに時間はかけない。この部屋から出てすぐに作戦司令部と話をするだけだ10分、いや5分待ってくれるだけでいい」 ケンが慌てて言った。「解りました、では休憩と致しましょう10分後にこの部屋に。建物から出ないようにお願いします」 紅は張り付いた笑顔のまま言った。 慌てて退室するケン、続くラーニー、アンディ、ネスター。月はその姿を見てジークベルトに目配せする。 端末から作戦司令部に繋げるケン。「父さん」『どうしたケン。何があった』「センジョーの者らと会った。契約書を突きつけられてさ……その事で相談したいんだ」『話してくれ』 ケンは個室であった事を出来るだけ細かく話した。『……そうか。今の話財団の上層部も聞いていたがやむを得ない出費との事だ。黒谷ジークベルトは強力な黒魔術師だ。黒谷の里出身で忍術にも詳しい、彼の事は財団も良く知っている。紅葉茄は恐らくセンジョーの代表・酒呑童子の配下、鬼の系統だろうな』「父さん! ジークベルトと紅の事は解った、俺が知りたいのは黒谷月だよ!!」『話だけでは何とも言えんが……思いあたる者はいる。しかし……』 セイがそこまで言った時ケンの目の前に黒い渦が現れそこから黒谷月が現れた。「あ!」『どうしたケン』「その……」 慌てるケンから端末を取る月。「映像通話に切り替えてくれ」「え? わ、解った」 ケンは端末を操作してビデオ通話に切り替える。「久しいなセイ・シーア」『君は……まさか本当に……』「この姿の事か? それとも我が存在している事か?」『その顔にその声……君しかありえない。白峰華月』「ふふ……正解だ。事情によりその名前は使えんがな。貴様は老けたな」 セイの記憶に強烈に刻み込まれている銀髪深紅の瞳の少女。容姿、声、所作、戦闘力、人間とはどこか違う価値観。記憶の中の白峰華月は成人したての比較的小柄な若い女性の姿であったが携帯端末越しの姿は明らかに幼い子供姿。それでも白峰華月でしかありえないと思った。『聞きたいことは山ほどあるが……華月、君が協力してくれるならこれほど心強い事は無い』「本当か? 貴様の息子は我の身を案じておったぞ」『それは他の真邪王の邪体ならともかく邪眼は君にとっても危険だからな。昔、君と協力してダンジョンを攻略した時は既に邪眼は封印状態だったから話す機会も無かったんだ』「そうか、理解した。十分警戒するとしよう。もう少し貴様と話をしたいところだがこの場ではそうもいかんだろうな」『ああ……』「本題を話そう、我としては貴様の息子に協力するのはやぶさかではない。だがこれはシーア財団とセンジョーの商談だ。我は自由の身ではない……言いたいことは解るか?」『……まったく君は昔から変わらないな』 セイは月の言葉から想像する。自由に行動できる身では無いが案件があればその間はある程度の行動制限は解除される。交渉の場に姿を現したのは自分自身を売り込み案件の間だけでも動きたいからだ。それほど彼女は窮屈な思いをしているのだと。「貴様の息子、あの当時の貴様と同じ顔をしておったぞ」 月はケンを横目で見ながら言った。『ケンが……そうか。それにしてもうれしそうだな華月。あの時ダンジョン攻略に誘った時、君は今と同じ顔をしていたよ』 月の不敵な表情は子供が得意気に技を見せる前のものにも、獲物を見つけた猛獣のようにも見えた。「あの時は当主としての束縛があった、そして今は別の理由で自由に行動できぬ。仕事があればその間は我はある程度自由になれるのだ戦えるのだ」『君が今どのような状況なのか解らないがあの時のようには動けないかもしれない』「む、何故だ? 【凶】の壊滅を望んでいるのだろう?」『それは勿論だが真邪王の完全封印こそが財団の最終目的だからな。危険度の高い邪眼の取り扱いは特に慎重にしなければならないんだ』「……我を少しでも邪眼に近づけたくないのだな」『すまない』「貴様の態度で財団は我らを戦力として協力して欲しいわけではないと解った。周囲の妖の者にも警戒を促し出来るだけ邪眼に関わらないようにさせたいのだな」『理解が早くて助かる』「だが、ジークベルトも言っていたように身に降りかかる火の粉は容赦なく払うぞ」『ああ、その時は君に任せる』「よし」『華月、ダンジョンへは勝手に入らないと約束してくれないか? やむを得ず入る時は私か、息子の勇者ユウ、ケン、もしくは財団に教えてほしい。事後報告は無しで頼む』「……いいだろう」 ほんの一瞬、見た目相応の子供のふくれっ面を見せる月。『その姿の君はあの当時よりもいささか子供に感じるな。やはり見た目に引きずられているのか』「我は変わったつもりはないのだがジークベルトや他の従者の態度を見るにそうかもな」『そうか。ではケンに代わってくれないか。近いうちにまた話そう華月』「ああ」 携帯端末をケンに渡し「席に戻っているぞ」と言い残し黒谷月はその場から去った。「父さん、あの者と知り合いだったのですね」 ケンは小声で言った。『ああ、白峰華月とは俺が勇者になりたての頃に出会い共にダンジョン攻略をした』「そうだったんだね……それで白峰華月とは何者なのですか?」『この国に古くから存在する妖と人間の混ざった存在だ。1000年以上続いている家で人間と妖の間に立ち、争いを治めてきた。白峰華月は白峰家歴代最強の存在と呼ばれていたのだ』「異質だとは思いますがそれほどの存在とは……あの姿では想像できません」『私が昔会った時、華月派大人の姿だった。何があったのか解らないがな』「見た目と反してとても好戦的に感じました」『ああ、昔もそうだった。だがもう少し落ち着いた振舞いだったな。やはり先ほど華月にも言ったが外見に性格が引きずられているように思える』「危うさも感じます」『……うむ、白峰華月の取り巻きは大変だろうな。あの姿となった華月よりも本当に幼かった時は周りは手を焼いただろう。小さな子供が大量破壊兵器を持っているようなものだからな』「父さん俺はどうすれば……」『華月は非常に好戦的だ、敵と認識すれば即排除に掛かる。だが話が通じない相手ではない臆せずに真正面から真摯に伝えれば大丈夫だ。繊細な一面もあるから言葉は選べ』「はい……」『なに難しく考えるな、機嫌が悪い時の母さんを相手にすると思え。似たようなものだ』「うん、わかった」 トイレと喫煙所がある方向の廊下にラーニー、アンディ、ネスターが居た。「で、どうするんだ勇者よ」「あの子供どこかで見た気もしないでもねえっすなぁ」「ガキに興味はねーなぁお仕置きしてわからせるのは嫌いじゃないが」 三人とも落ち着きのない様子で言った。「作戦司令部と相談した、契約しようと思う」 ケンは皆の顔を見てハッキリと言った。「協力者は多いに越した事はないからね」「あの黒谷月って子供……思い出せそーなんだけどなー」「センジョーってアイドルグループかかえてたよな? ワンチャン会えねーかね?」「皆聞いてくれ、あの黒いドレスの黒谷月って女の子は白峰華月といって……」 ケンは父親のセイから聞いた話を三人に聞かせる。「とんだ大物って訳だ」「マジ? ガチ? 白峰華月って死んだんじゃなかったけ?」「あ~白峰家ねまぁまぁ名前くらいは知ってたわ。器量良しの家系だからな」「かなり接し方に気を付ける必要があるとの事なんだ。だからあの子と話すのは俺に任せてほしい」 ケンはアンディとネスターを見て言った。「元エクレシアの者としては白峰華月がどういう存在がよーく知ってるつもりだよ、変な事言わねぇって」「子供は趣味じゃねーから安心しな」 ―10分が経ち、席に戻るケン達。ふくれっ面の黒谷月と無表情のジークベルト、張り付いたような笑顔の紅が待っていた。「契約内容には合意する。財団は金とアーティファクト1つを提供しよう」 ケンが言った。「その事なんですが……B案をこちらで用意しました」 紅がスクリーンに資料を映し出す。「センジョー主催のイベントに参加して頂ければ現金もアーティファクトも必要ありません。ただし丸一日拘束され身の安全は保障しかねますが」続く