命の色を宿す石
またもや暑さが戻ってきました。カラッとしているならともかく、蒸し暑いのはイヤですねえ……。中部圏に比べて、東京の方は湿度が低いと聞いていたのですが、あまり実感はありません。暑さが戻ってきたので、話題も「色」に戻りましょう。今日のネタは赤い水晶。ぶっちゃけた話が鉄サビです。「命の色」なんてカッコつけたタイトルで始めておいて、いきなりサビかい、とお思いかもしれませんが、ちゃんとまとめるつもりですので、おつきあい下さい。さて、本題に戻りますが、でかでかとネタばらしをしてしまったので、すでにおわかりのように、水晶の「赤」は、結晶のそのものの色ではなく、酸化鉄によるものだそうです。その色の発色方法は、大きく分けて2つあります。ひとつは、「タンジェリン」とか「ララジンニャ」と呼ばれる、赤というよりオレンジ色のブラジル産の水晶に代表される、結晶の表面に酸化鉄が付着して色が付いて見える物。マダガスカル産や、南アフリカのオレンジリバー産、中国産のヘマタイトと共生する水晶、ちょっと土っぽいですがモロッコ産水晶にも見られます。当然のことながら、こちらの発色では結晶内部は透明(赤くない)です。また、オレンジリバー産などでは、成長途中の水晶に酸化鉄が付着してそれがファントムになったものがよく見られ、「レッドファントム」などと呼ばれています。発色方法その2は、結晶の内部に不純物として酸化鉄が入り込み、赤く発色して見えるものです。これには、スペイン産、マダガスカル産、ロシア産などがあります。これらは、断面を見ると、内部にも色が付いていることがわかります。私は、タンジェリンなど、表面に色が付いた石を持っていないので、実例としては片手落ちですが、写真をどうぞ。 左上は、スペイン産の赤水晶、右上が、おそらく南アフリカ産と思われる「レッドファントム」、下がロシアのダルネゴルスク産の赤水晶です。(オレンジ水晶、ニンジン水晶、カニ水晶と呼ばれることもあります)レッドファントムなどでは、「ヘマタイトが付着し……」などと説明されていることも多いですが、ヘマタイトは和名の「赤鉄鉱」からもわかるように、鉄の鉱石です。ちなみに、「わびさび」の「さび」は、「寂」で、金属のさびとは関係がありません。また金属のさびは、鉄のさびならば「銹」、金属一般のさびは「錆」を用いるのだそうです。(旺文社 国語辞典)※「てつさび」で変換すると「鉄錆」が出て、「さび」で「錆」が出てこないATOK15。大丈夫か? (かつて黄鉄鉱を「追う手甲」と変換した実績がある……)この赤水晶……特にスペイン産の赤水晶は、デジカメで撮ると赤がいっそう鮮やかに写る傾向があります。西に傾きかけた、黄色みを帯びた光で撮ろうものなら、「血」のような、一種生々しいとさえ思えるような赤に見えるのです。そう……脈打つような、体温すら感じるような色に。「血」というと気味が悪いと思われるかもしれませんが、この連想は、ある意味的を射ています。なぜならば、この色の元となっている鉄……ヘマタイト(hematite)の名は、ギリシャ語の haima (血の意)にちなんでいるからです。また、現在オーストラリアなどに見られる、膨大な鉄の赤い鉱脈は、太古、地球上に藍藻などの光合成を行う生物が誕生し、酸素を生み出しそれが海中にとけ込んだことで海水中の鉄分が酸化して降り積もったものだそうです。海中の鉄分を酸化した酸素は、ついには大気中に溶け出し、現在の大気が生まれたのだと言われています。鉄銹の赤というのは、どこかで命とつながっている色なのだと言えるのかもしれません。その色が、無機物である水晶の中に、鮮やかに現れるとはちょっと不思議な気がします。ここらへんで、この日記のシトリンやアメシストのところを読んで下さった方は、シトリンやアメシストの発色原因も鉄じゃなかったか?と、お思いかもしれません。実は、私も思いました。確かに鉄は鉄ですが、シトリンとアメシストの場合は、水晶を形成する珪素の一部が鉄に置き換わったことが原因で発色しているのに対し、赤水晶(中まで赤いもの)は、結晶の隙間に鉄が入り込むことで発色しています。ですから、シトリンとアメシストは、水晶そのものの色、赤水晶は厳密にはインクルージョンといえるのかもしれません。※余談 その1赤水晶は別名鉄水晶とも言うそうです。英語ではFerruginous Quartz。 ※余談 その2スペイン産の赤水晶の写真をみたある人の感想。「激辛って感じ?」以来、この水晶を見るたびに「激辛」が頭をよぎります。第3のあだ名水晶の登場なるか?※余談 その3日記を書くときはいつも、もう一度調べることにしています。で、「赤水晶」で検索をしたら、ゲーム関係のサイトがヒットするするする……。「黒水晶」(「モリオン」だとビーズ関係が山ほどヒット)とか「青水晶」もゲーム率高いですね。よく見かけたのが「赤水晶の剣」。きっと語呂でネーミングしているのでしょうが、まさしく「血」色の石を見てしまった私としては、ちょっとシャレにならないぞと思ってしまいます。