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カテゴリ:怒
夜明け前といっても、まだ街は暗闇に包まれている
人影も殆どなく、立ち並ぶオフィスビルの窓からは明かりが漏れていないせいか、薄暗くてなんだか寂しい そんななか、職場に向かうために、車のハンドルを握っていた 自分は、片側三車線の道路のうちの真ん中の車線を走行していた すぐ隣りの左側の車線には、自分の車と肩を並べるようにして、2トントラックが併走している ちょっと緩やかな右カーブにさしかかったときだった 突然、左隣のトラックが、車線をまたいで、自分の車の方に車体を幅寄せしてきた 「あぶないッ!」 自分がトラックを避けようにも、右隣の車線は、右折レーンとなっていて、右折待ちをしている車が列をなして停車している このままでは、自分が車のスピードを出しても、緩めても、どちらにしてもぶつかってしまう ということは、トラックの幅寄せ行為を止めさせるしかない 咄嗟にそう思った自分は、クラクションを鳴らした “パァァァァァ~ン!!” しかし、クラクションの音は虚しく響くだけで、次に聞こえてきたのは、“ドンッ!”という鈍い音だった いきなりグイグイとこちらに幅寄せをしてきたトラックが自分の車の左側のボディに接触したのである その事実を知った自分は、怒りに身体が震え、全身の血が逆流するような思いでいた 「この野郎ッ!!」 トラックは、自分の車より若干先頭を走っているので、運転席を覗くことができない どんな奴が運転しているのか顔を見てやろうと思った自分は、車のスピードをあげた 二台の車が肩を並べたところで、相手のトラックの運転席を睨みつけると、眼鏡をかけた初老の男性が、こちらに向かって申し訳なさそうに片手をあげた 運転手は、気づいていたのである しかし、そのトラックは止まることもなく尚も走り続ける その時、自分はトラックのナンバーを控えることにした というのも、以前も当て逃げの被害に遭ったことがあり、そのときは、逃げた相手の車輌のナンバーを控えなかったばかりに、警察に取り合ってもらえなかった経験があるのだ 車のスピードを緩め、いつもは暗記が苦手な自分が、走り続けるトラックのナンバーを必死に頭に叩き込む バッグの中にしまってある携帯電話を取り出すと、車体に入っていた運送会社の社名と、暗記したナンバーを携帯電話に打ち込んだ そうこうしているうちに、問題のトラックの姿は、他に走行している車のなかに紛れてしまい見失ってしまった ここで、普通の人ならば、事故を知らせるために、すぐに110通報をするだろう しかし、自分はしなかった というのも、今日は早朝から仕事の予定がギッシリと詰め込んでいたので、事故現場に警察の人が来るまで待って、現場検証するという時間を割いている余裕が無かったのである 頭の中では、当て逃げした相手のトラックのナンバーを控えているから大丈夫だろうという気持ちもあった とりあえず、職場に着いてから110番通報し、事故の概要を説明すると、女性の事務的な声で「時間が空いたときに事故現場の最寄りの派出所に出向けばいい」と言われたので、仕事を優先して、終わってから行くことに決めた 車体は、左側のボディに1メートル半ほどにわたって、引っかき傷のような爪痕が刻まれていた ところどころ塗料が剥げたり、凹んでもいる 見た目には酷い傷ではないが、それでも修理しようもんなら、数万円はかかるだろう 自分は普通に走行していただけなのに、なぜこのような目に遭わなければならないのだろうか? しかも相手は逃げてしまっている 段々と腹が立ってきて、とても仕事できるような平常心を保てそうになかったが、それでも自分のプライベートな事を持ち込むわけにはいかない 感情を押し殺して、ビッシリとスケジュールが詰まっている仕事をひとつひとつ片付けていった そして、仕事が一段落すると、ちょっと途中で抜けて、事故現場の近くにある交番へと出向くのであった… お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009年03月01日 21時42分28秒
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