カテゴリ:国語
まだ三十になりたての頃、住んでいたところの近くにあるスナックにちょくちょく出かけていた。
ママさんは、若いのによく気のつく人で、何だか癒されるということもあり、足を運んでいたように思う。 そんなある日のこと、ママさんが昔から知り合いだという人が小学校に入ったばかりの娘を連れて店に現れた。 時間は夜の7時ぐらい。 店には僕とカウンターレディーのイズミちゃんとママしかいなかった。 女の子は早速カラオケを要求。 まだ準備ができていなかったので、ママは大慌てだ。 女の子はそんなことは関係ないといった具合で、マイクを手に取り、 「あ、あ」 とマイクテストをしていた。 しばらくして電源が入り、彼女の発する「あ、あ」の声がマイクを通して店中に響いた。 そこで、女の子は、 「ごめん、声、出ちゃった」 と言った後、歌いたい曲のナンバーをマイクを通して告げた。 ママやイズミちゃんが、いろんな準備に追われて、なかなかお願いした曲が鳴らないので、 「ねぇー、早く入れて」 とマイクを通して彼女の声が再びこだました。 僕とイズミちゃんは顔を見合わせて、声を押し殺して笑ってしまった。 そして、彼女の歌うべき曲の前奏が流れた。 その曲が「大きな栗の木の下で」だった。 僕とイズミちゃんは今度は大笑いになってしまった。 その時の彼女も、もう高校生ぐらい。 あなたと私は仲良く遊んでいるのだろうか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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