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~ Monologue ~  My Life Living in Hong Kong

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Aug 24, 2006
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カテゴリ:プライベート
「私は偽善者になりたい」
「私は善人ではない」
「善人にはなれない」
「でも、偽善者にはなれるかも知れない...」


20年前?、駿台予備校のテキストにこんな文章があった。

「偽善者でも、一生偽善者であることを隠し続けられれば、善人と同じだ」

確か、そんな内容だった。

20歳(?)の私は感銘し、「そうなろう!」と思った。

今夜は部下のひとりと、彼ががんばったご褒美としてリクエストに従い、二人で焼肉を食べてきた。
もちろん、自腹だ。

家への帰り道。老人が路上で立ち上がろうともがいていた。

「大丈夫ですか?」
偽善者である私は声をかけた。

「うん、ちょっと、立てなくてねえ...」
「気分が悪いですか?」
「うん、大丈夫だよ」
「お酒飲んでますか?」
「うん、飲んできた」

手を貸し、老人は立ち上がり、私を見つめた。
「ありがとうねぇ、こんな風に声をかけてくれて...」

「家は近いんですか? 送って行きますよ。携帯電話を持ってるから、ご自宅に電話しましょうか?」
「うん。大丈夫だよ、近くだから、帰れるよ、大丈夫、大丈夫」

歩き出した老人に
「気を付けてね」
と、背を向けた。

でも、そのまま帰れるものじゃない。

角を曲がって、老人を見守った。

スタスタと歩き、信号無視をし交差点を渡ろうとする。
車は急ブレーキをかけ、止まり、しばらくしてクラクションを鳴らした...

走り寄る暇も無く、老人は交差点を渡り切った。
そしてまた、スタスタと...

道路を挟んで、私は見ていた。
私の家の前も通り過ぎて歩いて行った。

私は道路を渡り、自宅の前で立ち止まり、彼の背を見ていた。

「偽善者」...

心配するべきだと思っているのか? 本当に心配なのか?


何人かが彼の横を通り過ぎた。

ある女性が取りすぎようとしたとき、彼はよろめき、倒れた。

「!」

私から20mほど先。 女性は老人に声を掛けた。
バッグからハンカチと水を通りだし、ハンカチに水をかけ、老人のおでこを押さえた。
倒れた時に怪我をしたのかも知れない。

会話は聞き取れない。

「大丈夫ですよ。どうぞお帰り下さい」
「大丈夫ですよ。どうぞお帰り下さい」
そう繰り返す彼を残し、女性は私の前を通り過ぎて行った。
彼女は去っていった。

また、一人になった彼の様子をしばらく見ていたが、彼は立ち上がれない。

「偽善者」...

それでいい。本望ではないか。後は彼が受け入れてくれるかだ。

彼に少しずつ近寄っていく私を、さっきの彼女が追い越そうとした。

「私もさっき声を掛けたんですが...」
話しかけた。
「心配ですよねぇ」
優しい女性だ...

二人で彼のそばへと歩いた。

「お父さん、ほら、帰ろうか? 近くでしょ、送っていくよ」
「さ、立とうか? 帰ろう」

老人の手を取り、彼の脇に腕を入れ、支え、歩き出した。

「じゃ、女の人は、もう遅いから帰ってもらおうね。僕と一緒に帰ろうね」

彼女に帰宅を促し、二人で歩いた。

「酔っ払っちゃったね。楽しかった?」
「奥さんとか心配してるんじゃないの?」

「一人だよ。。。帰ってもだ~れも居ないよ。。。」

「そっか、でも今日は楽しく飲めて良かったね」

「奥さんは先に逝っちゃたかぁ~」
「一生懸命、がんばってきたんだもんね。たまには酔っ払ってもいいよね」
「なんだよ、よく解ってくれるね~」

「うちの親父は大正9年生まれだよ。お父さんは?」
「昭和4年だよ」

もし、父が生きていたら、この老人より年上なのだ。。。

「そっか、大変だったねぇ」

彼を支えながら歩いた。


「ここだよ」

思ったより近かった。

『品川区高齢者借上住宅』

「何階?」
「5階」

「駄目だよ! ちゃんと支えてくれなきゃあ!」
エレベーターのボタンを押そうとし、よろめいた彼が言った。

「ごめん、ごめん」

「ちゃんと鍵、持ってる?」
「ん...?... 無いよ...」

左右のポケットを探りながら、彼が言った。

「とりあえず行こう」


彼の部屋のドアは半分開いていた。

「開いてるよ」
「今夜も一人で寝るだけだよ...」

「まぁ、入ってよ」

ちゃんと靴を脱ぎ、1DKの寝室に辿り着いた彼を見送った。

「帰るよ。 ちゃんと鍵閉めて、風邪ひかない様に寝なきゃ駄目だよ」

「おやすみ~」

「ありがとう...」


私は偽善者だ。

『品川区高齢者借上住宅』なるものが、うちのそばにあることを知らなかった。
彼をひとりぼっちの部屋に残し、靴も脱がずに、帰ってきた。

彼の為に出来ることは、もっと、もっと、ある筈だ。

私は偽善者だ。

私はもっと、もっと、より、偽善者にならなければと思う。

私は一生を掛けて、偽善者になろう...






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Last updated  Aug 25, 2006 12:47:03 AM
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