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カテゴリ:小説
ETARNALMEMORY
プロローグ ドイツ連邦共和国、通称ドイツは、ヨーロッパ中部にある連邦制の共和国である。アメリカ合衆国、日本に次いで世界第三位のGDPを誇る経済大国であり、欧州連合(EU)の中核国である。その首都のベルリン・フリードリッヒスハイン・クロイツベルク区の一角に、そのビルは存在した。表向きは政府の所有施設で、他国との外交や貿易などを中心的な職務としているとされているが、実際はそれだけではない。ビルの最上階にはドイツの非公開諜報部の部署がある。その部屋の前には、一人の少年が立っていた。 歳は十六かそこらであろう、長くもなく短くもないオレンジがかった金髪をしており、その顔つきは整っているほうである。その目は鳶色で、見る人に真っ直ぐで誠実な印象を与える。しかし、その外見の幼さからすれば、少し違和感をも覚える。 コンコン 扉を叩くと、部屋の中から男の声がした。 「失礼します」 少年はそう言って部屋の中に入った。そこはどこにでもあるような事務所で、少年の入ってきたドアの壁以外はガラス張りである。その少年の向かい側には大きなデスクがあって、そこに一人の男が腰掛けていた。白人特有の高い鼻に青く小さな目が印象的だった。今はもう四十か五十のあたりと伺えるが、若き頃はさぞかし美青年であったろう。 「かけたまえ」 男に促されて少年はデスクの前のソファーに腰を降ろした。男は立ち上がるとデスクに置いていた資料を少年に渡し、自らは少年の目の前のソファーに腰掛けた。 「今回呼び出したのはいつも通り、仕事の話だよ」 あえて言わなくてもわかるが、少年は「はい」とだけ返した。 「一ヶ月ほど前の我が国の連邦参議院議場の爆発事故についてなのだが・・警察の調べで容疑者が浮かんできた」 男は一旦言葉を区切ると、少年に資料の三枚目を見るように言った。そこには無精ひげを生やした、いかつい顔の男の写真が載っていた。 「エカルド・クロッカスだ」 エカルド・クロッカスは、裏世界ではその名を知らない者はいない、といわれるほどの裏世界の一種の傑物だった。爆破専門のプロで、冷酷かつ容赦ない一匹狼の暗殺者で、異名は「ファイヤーキラー」である。確かにこの男なら母国の議場を爆破させるくらい笑顔でやってのけそうだった。 「もう察しはついてると思うが・・君には彼の暗殺指令が出ている・・国から、な」 男の言葉に、少年はふふんと鼻を鳴らした。ヤツはただの人間だ、このオレが劣るわけがない。すると、その少年の考えを呼んだかのように男は身を乗り出した。 「フェイル・アルティンス。そんなことはないとは思うが、ヤツを守るために他国が“フォースメトル”が保護に出ないとは言い切れない。くれぐれも慎重に行動したまえ」 男はフェイルへの注意を終えると、またソファーに身を沈めて最後にこう言った。 「期間は1週間。延長はできなくもないが早急な任務遂行を期待する。支援などには最善を尽くそう」 「わかりました」 フェイルはそう言って立ち上がるとその事務所を後にした。高速エレベーターで1階に降りるとビルを出てタクシーを拾った。 「空港まで」 そう運転手に告げてシートに深く身を沈めると、先ほどの男――ドイツ特殊諜報組織「シュバルツクロイツ」長官から受け取った資料をもう1度マジマジト見つめる。この事件により連邦参議院議員や警官数十人に重軽傷者が出ており、連邦参議院は全壊しかけていた。 「まったく、呆れるヤツだな・・」 フェイルはぼそりと呟いた。クフェイルはこの後飛行機で直接アメリカ入りすることにしていた。そうすれば早くても明日までにはエカルドを殺せているはずだ。フェイルは内心ほくそ笑んだ。この仕事は最短でも明日で終わる、その後ユニバーサルにでも行って遊んでみようか。 ここはアメリカ合衆国。北アメリカ大陸中央部の大西洋と太平洋に挟まれた本土以外に、大陸北部のアラスカ、太平洋のハワイ諸島、アリューシャン列島を国土とし、さらに本国の他に、プエルトリコやグアム島などを領有する。北はカナダ、南はメキシコと隣接、西は海を隔ててロシアと接する。50州、1特別区(連邦政府直轄地)からなり、資本主義、民主主義、共和制、大統領制、2院制を採用している連邦国家の1つである。 ここは国内最大の都市・ニューヨークのマンハッタンのとある街、グリニッジ・ウィレッジ。北は十四番通り、南はハウストン通り、東はブロードウェイ、西はハドソン川に囲まれた地域。その街中に、1人の少女が歩いていた。歩くだけで風になびくシルバーブロンドに、水晶のようにも見える濃紺色の瞳。整った顔立ちは、まさに絶世の美女といえるであろう。そんな彼女のその美しい顔は、今はとても上機嫌なように微笑んでいた。 「ふっふっふっ~」 そう笑いながら、彼女は懐から取り出した通帳を開いた。その残高の一番下の数字を見て、彼女はまた嬉しく笑った。実は今日アルバイト先の喫茶店からお給料が出たのである。 彼女の名前はユキ・フェンリル。まだ17才の少女である。彼女の年頃の少年少女のほとんどが高校生活を送っているが、彼女は違う。今は昼の三時を少し回ったところ。少し早いが今日は家にさっさと帰ってディナーでも楽しみたい所だ。 ふと前方を見てユキはおや、と思った。交差点の反対側のビルの辺りに警官がうろついていたのだ。しかも数人どころではなく数十人も、その周りには機動隊がバリケードを張っていた。とても緊迫した雰囲気だった。そしてその周りには野次馬がいた。 『まぁ、どうせ立てこもりかそんなトコでしょ』 そうユキは思った。そして通り過ぎようとした瞬間、それは起こった。 ズドォォォォォ・・・・・ン!!!! 「!?」 突然の凄まじい爆音。肌を劈く風圧。しばらくして落ちてくる破片。 ユキはバッと上を仰いだ。警官や機動隊のうろついていたビルの屋上付近から、黒い煙がもうもうと上がっていた。赤い炎も少し垣間見えていた。 「・・・・!」 ユキは言葉も出なかった。気付くと、周囲は大パニックだった。野次馬だけでなく、この付近の人々が逃げ惑っていた。車は玉突き事故を起こし、逃げようとして車に轢かれた人もいれば、ぶつかったのも気にせずただひたすら逃げていく運転手もいる。グリニッジ・ウィレッジの一角に大混乱が引き起こった。 警官隊や機動隊も慌てている。救急車を呼んだり、ビル内部の人々の避難の補助などをしているのだろう。 「・・何が起こったの・・・!?」 彼女は呆然とした。完全に動けなくなった。そのままその場にへたり込んでしまう。その美しい顔にはもう笑顔などなく、ただ恐怖と驚愕のみがあった。 その時、彼女の足元に影が広がった。上を見ると、大きな瓦礫が彼女目掛けて落下してきていた。 「・・・・!」 足が動かない、悲鳴も出ない。避けられない・・・! そう思って顔の前に手をかざし、目を閉じた。 ズガァァァン! 瓦礫は歩道の真ん中に落ちてきた。大きな轟音とともに破片が砕け散る。が、その下にユキはいない。 ユキは恐る恐る目をあけた。すると、その目に飛び込んできたのは自分に落ちてくるはずだった瓦礫の破片類だった。 「おい、大丈夫か?」 ふいに上から声をかけられた。目を向けると、すぐ上で知らない少年が心配そうに自分を覗き込んでいた。長くもなく短くもないオレンジがかった金髪が目に垂れ下がっている。鳶色の瞳と濃紺色の瞳が交錯する。 かくして、フェイル・アルティンスとユキ・フェンリルは出逢った。 ETARNALMEMORY プロローグ 終劇 続きが気になる場合は掲示板等に書き込みしてください。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Jan 21, 2007 09:44:05 PM
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