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カテゴリ:小説
燈姫の小説よっつめです。読めない漢字がとうがありましたらコメントをしていただければいいです。
きみとともにあるこう WALKING・2 新生徒会発足 入学式の翌日。今日は入学早々の実力テストの日だった。テストといっても成績には響かない。受験も踏まえて改めて生徒一人一人の学力を把握するための調査で、科目の五教科。 一時間目は国語、それから数学・科学・社会・英語・・・と続く。ちなみにこの学校は普通科だ。 橙姫にしてみればこのテストは余裕だった。長らくドイツに住んでいたせいか多少日本語の読解に困ったものの、空欄もなくまた全ての答えに自信が持てていた。対する美帆は、ちんぷんかんぷんだった。一番得意な社会にしても、空欄を三つも空けてしまったらしい。元気はいいがバカだったのだ。橙姫は天才、美帆はバカ、やはり対照的な二人だった。 昼休み、橙姫は教室で一人だけでお弁当を食べることにした。宗一郎の作ってくれたお弁当で、丸の内だそうだ。低血圧で朝の弱い橙姫や家事のできない巳衛門に代わって朝食・お弁当はいつも宗一郎が作っている。 丸の内がどんなお弁当なんだろうとわくわくしつつもお弁当の包みを開こうとすると、目の前が翳った。視線を上げると、そこには満面の笑みの美帆。 「・・・何か用?」 橙姫が訊くと、美帆は満面の笑みを湛えたままのたまった。 「一緒におべんと食べよっ!」 「・・どこで?」 「屋上!」 「・・誰と?」 「私の友達と!」 「・・・いいけど」 「じゃ決定!行こ!」 美帆が喜んで橙姫の腕を掴んだ。 「あ!ちょ待って・・!」 橙姫は慌ててお弁当片手に美帆に連れられ教室を飛び出して行った。 ◆ ◆ 「お待たせ~!」 屋上には、美帆を待っていたのかお弁当に手をつけていない女生徒が三人いた。 「橙姫さんごめんね~」 「美帆は言い出したら止まらないから」 女生徒は苦笑混じりで言った。 「いえ、別に・・」 橙姫は慌てて答えた。 そうして、五人は円になった昼食タイムに勤しむことにした。 「ねぇ、美帆はどこの中学だったの?」 女生徒の一人が美帆に尋ねた。 「私は愛衣之中」 「私も」 「あなたは?」 「えっ、私?私は隣の市の秋庭中」 「ふ~ん、じゃあ市橋さんは?」 橙姫は自分に振られたので口に頬張っていたから揚げを飲み込んで答えた。 「私は今までドイツに住んでたの」 「えっマジ!?」 「じゃあじゃあ、市橋さんて帰国子女!?」 「すっごぉいドイツ語とか話せるの?」 「い、いや、ドイツ語の成績悪かったから全然・・」 「あらあら、ドイツ在住のくせしてドイツ語もしゃべれないかぁ」 美帆がそう言った。だが、特別見下したりバカにしたりするような響きではなかった。 「美帆は英語すら話せないでしょ」 「そうそう、リスニングでcourseとbecauseの違いもわかんないんだから」 「べ、別にいいじゃん!英語くらい!」 みんなに言われて美帆は慌ててそうのたまう。 「あら?開き直り?」 「興奮度84%とみた」 「も、み、みんなでバカにしないでよぉ!」 「「ホントにバカなんだから仕方ないでしょ」」 女生徒二人にハモりで指摘されて、美帆は「そんにゃあ~」と膝に突っ伏す。 しかし橙姫は苦笑すらせず一人で昼食タイムに勤しんだ。 ◆ ◆ 放課後。橙姫は帰り支度をして会議室に向かっていた。「生徒会立候補者・推薦者は放課後に会議室まで集合」と校内放送が掛かったのだ。 この学校は広く、そして内部構造は複雑である。毎年この時期は本気で迷子が出るらしい。 橙姫は会議室の前まで来ると、ノックをした。 カチャリ 「失礼します」 会議室には、男性3人、女性4人の合計7人がいた。それぞれ長テーブルをはさんで右側に女性、左側に男性が座っていた。 「さ、そこに座って」 一番左奥の優しそうな生徒が掌で席を指した。橙姫は軽く会釈してその席に座った。 「さて、全員揃ったね。1年生の子は初めまして、僕は生徒会選挙実行委員長の三年A組の石田です。今日はわざわざ集まってくれてありがとう」 「早くしてくれよ、塾に遅れる」 左側の真ん中に座っている生徒がそう言った。 「わかってるって。さて、今回君達を呼び出したのは明日からの本格的な選挙活動の打ち合わせをするため。けど最初にみんな軽く自己紹介をしよう。立候補した役職と名前とクラスくらいかな。というわけで、豊から」 石田に促されて、左の真ん中の生徒は立ち上がった。 「初めまして、生徒会役員に立候補した三年A組の紀野豊です。よろしくお願いします」 豊は黒い髪に緑ブチのメガネをしたいかにもガリ勉タイプの少年で、とてもマジメそうだ。 次にその隣の生徒が立った。 「どーも、生徒会役員に立候補した三のCの新谷舜です。とりあえずよろしく」 舜は軽く脱色した茶色い髪に目元の泣きボクロが印象的で、気さくなイメージがあった。 「私は二年B組の香坂瑞希です。生徒会副会長に立候補します。あ、初めまして。よろしくお願いします」 瑞希は長くて茶色い髪が軽くウェーブした、大人びた雰囲気の少女だ。 「わ、私は生徒会書記に立候補した一年C組の志乃宮玖奈です。よろしくお願いします」 玖奈は黒い髪を三つ編みにしたおとなしそうな子で、少し緊張している様だった。 「ウチは生徒会会計に立候補した二年A組の真田実祐です。よろしゅうお願いします」 実祐はショートヘアの少女で、今のセリフからは良く解らないが関西弁訛りだ。 「私は倉内美帆でっす!生徒会役員立候補の一年D組だよ、よろしくねっ!」 美帆だけはとても元気よく、しかもタメ語での挨拶だった。 そして橙姫に順番が回ってきた。 「初めまして、私は生徒会長に立候補した一年D組の市橋燈姫です。よろしくお願いします」 「さて、これで全員だね。それじゃあ明日の打ち合わせ始めるよ」 と、石田が言ったところで、突然会議室の扉がぶっ壊れてもおかしくないくらい勢いよく開かれた。 「みんなー!元気にやってるかなー!?」 白い肌に漆黒の大きくて丸い瞳。長い髪をポニーテールに結わえた、スーツ姿のニコニコ笑顔の女性。 「こ、校長・・何の御用で・・?」 石田は頬を引きつらせつつ、苦笑いでそう訊いた。 「いや~ヒマだったからちょいと寄ってみただけ、てへ♪」 現愛衣之学園校長・美由利乃丞はそうのたまった。校長が職務中に言うセリフではない。 「あ、そうですか・・」 一年の橙姫や美帆や玖奈は動揺しているが、残りの全員は軽く脱力したり呆れていたりしているだけだ。どうやらこの校長の奇行怪行には慣れているらしい。 「あ、そうそう、今年立候補者が一人足りないけど、気にしないでね。一人くらいいなくてもダイジョーブだろーし」 責任感や緊張感の欠片もないこの楽観的な発言。 「それじゃみんながんばってねー、Goodbye!」 そう言うと美由利は去って行った。・・・・セグウェイに乗って。 「あれ、いいんですか?校舎内で・・」 玖奈が美由利の去った扉を指差しつつ石田に尋ねた。 「いや、あの人に何を言っても無駄なんだよ」 「言ったら絶対、こう返ってくるわ・・」 「「「「私校長だもん、って」」」」 全員が溜息混じりにハモって吐き出したそのセリフに、残りの一年生三人組は呆然とした。 ランキングは皆さんのおかげで戻りつつあります!! 応援クリックをしていただきたいです!! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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