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カテゴリ:妄想
彼が、唇に微笑みを浮かべながら、
いたずらっぽい表情で音もなく動き回る姿は、ネコ科の動物を思わせるの。 192センチの長身。 女に見えなくもない、繊細な顔のライン。 そして、なんといっても、手。 まるで、違う生き物のようにイワンの手は、感情と同化している。 今も、銀のトレイを持つ指先が、踊りださんばかり。 いいことが、あったのね。 「ねえ、ミーラチカ。あなたの好きな焼酎だよ」 若いイワンは屈託がない。オーナーである私の事をかわいこちゃんと呼べる男は彼だけ。 「どうしたの?森伊蔵じゃないの。あ…もしかして新しいボーイフレンド?」 「あたり。前にヒースローで会った日系キャリアのクルーからもらった」 イワン。私の癒しの天使。 彼はまったく、女には興味がないのね。 だけど、女たちは、皆イワンに夢中になる。 仕方がない。こんなにキレイな男など、滅多にいないのだから。 私が、彼をスカウトしたのも、その美しさにハッとさせられたから。 パリのファッションシーズンだったわね。 ジャン・ポール・ゴルチエのステージを闊歩するあなたは、 ランウェイの堕天使と言われていたわ。 私の隣のヴォーグの記者が、興奮して大騒ぎ。 すぐに、私のものにしようと決めた瞬間だったわね。 「あなた、カーステアーズに誘いをかけたって、本当?」 顔中で笑うと、イワンは頷いた。 「ミーラチカ、あなたの使者だなんて思わなくて、いい男だなって思ってさ」 「たしかに、彼はいい男よ」 「で、私には敬愛なる婦人がおりますゆえ、とか、そんな事言ったんだよ。 おかしいでしょ。だけど、オーナーがあなただと知って、すぐに辞めちゃった」 「悪かったと思ってるのよ。だって、あなたが辞めなければ、 今頃、アンドレイ・ペジックは世に出ていなかったはず」 イワンに似たタイプの中性的なモデルだ。 ゴルチエのお気に入りになったものね。 イワンは、私の右手を両手で包みこみ、私の耳元でささやく。 「あなたは、私の、喜び」 カーステアーズには、絶対ありえないアクションなのね。 「さあて。オーナー、今日はどうしてボクのキャビンにやってきてくれたの?」 「今ね、あっち(妄想鉄道)は、大々的なメンテナンスを始めたのよ」 「どうして?」 私は、新しく舞い降りた恋について、イワンに言うべきか迷ってしまった。 「わかったよ、ミーラチカ。新しい奇跡が起きたんだね!おめでとう」 「あなたには、しょっちゅう、奇跡が起きてるようだけど」 「いじめないで、愛しいオーナー。ボクは、毎回その奇跡を全力で受け止めてるんだよ」 イワンには、不思議なところがあって、 とても年下なのに、母性のような温かいものを持っている。 今も私の手をとり、肩を抱いてこう言う。 「ミーラチカ、おいで、あなたのベッドに行こう」 そして、献身的に彼の自慢のマッサージを施してくれるのだ。 「どんな人か、このイワンに教えてよ。獲ったりしないよ」 そして、つい、私は彼にのせられて、語ってしまうの。 「そっか。ボクならば、当たって砕けるけどね、 ほら、ボクは、どうせいつか死んじゃうんだから、悔いなく生きてやるってのが 信条なんだもの」 「イワン、あなたは若いわ。まだまだ希望が連なっているわ。 私は、怖いの。で」 「怖さを感じるぐらいに、本当に悩んでいるんだね、ミーラチカ」 私の目から、涙がこぼれ出る。 頬をすべりおちて、シルクのシーツの上に丸く形づくり、そしてフッと消える。 イワンは、母のように抱きしめてくれて、 私に諭すようにいうの。 「愛しのオーナー、あなたは、永遠がどこかから降ってくるって思ってる? ちがうよ。少なくともボクは、自分で永遠を作り上げる努力をしてるんだよ。 あなたも、いつかは、立ち向かわなきゃ」 そうして、私たちは、氷のほとんど溶けたグラスを鳴らし、夜が更けていくの。 ねえ?こういう時ウーはどこにいるのかって、 マジメに質問メールをくださる方があるわね。 もちろん、子供部屋があるのよ、私の飛行機には。 ベビーシッターの、マリアがいるから、安心してね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2012.08.03 20:02:05
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