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2013/01/28(月)07:21

東京藝大卒業・修了作品展 林 千歩さんの映像、藤森詔子さんの版画・油画・立体、若林真耶さんの鍛金

美術館・画廊メモ(146)

平成24年度の藝大卒展、1日目の1月26日は大学美術館と絵画棟をまわりました。 美術館3階奥、暗幕で仕切ったスペース。林千歩(ちほ)さん (油画 修士) の映像新作 「雲を眺めて古きを落とす」 が楽しい。 じつはとってもあたたかな美少女の千歩さんだけど、素顔を見せない変装・化粧で作品にぴょこぴょこ登場しまくっている。いつもの千歩流。 今回も先ず よぼよぼ老人に扮してよろよろ登場し、佛さまに水やりする。この吹っ切れ感がアートですねぇ。 佛さまの螺髪(らほつ)をアップにすると、螺髪はなんと、とぐろ状の帽子をかぶった変装人間たちじゃないですか。 螺髪たちは佛さまの長ぁい舌に舐められてさんざんな目に。でも立ち直って、倒壊した佛さまを助けてあげるんです。千歩ちゃんは螺髪軍団のリーダーです。 佛さまのドテ腹の覆い布をはずすと、なんとそこには割れ目ちゃんが。そこから生まれるのは、白鳥の翼の金色童子。この童子も、千歩ちゃん。美少女ぶりをちょっとだけ見ることができます。 童子と螺髪たちのダンスもたのしいです。 やがて天空に飛び立つ白鳥童子。(そのからくりは、何度か観るとわかるヨ。) お芝居は終わり、キャッツ顔の胴元がご挨拶。これも、千歩ちゃん。 ひとりで何役もやって、すごいエネルギーですが、12月下旬に話をきいたときは 「撮影はこれから」。 千歩ちゃんの過去作品は野外ロケも多くて、電車内に侍姿、駅コンコースに異教神姿でひょこひょこしまくるハプニング映像作品など。 小豆島の地元の老人がたに体当たりでお願いして、爆笑の若作り変装で出演してもらい、千歩ちゃん自身は蝸牛神姿でぬめぬめ登場する作品も。 寒風のなか、友情出演の皆さんとの撮影はたいへんだろうな。ムリしないで、過去映像をうまく利用すればと伝えていましたが、いや、やってくれましたねぇ。螺髪佛白鳥童子、みごとな新作でした。 会場には、小豆島撮影作品を1枚の絵にしたインスタレーションふうの立体油画や、撮影時につかった着ぐるみちゃんたちも展示されております。 林千歩ちゃんの総合アートがあまりにおもしろいものだから、並み居る他の作品たちが色褪せて見えるほど。 さて、千歩ちゃんの今後は? 即興のおもしろさは、宇野亞喜良さんの舞台美術に通じるところがあるので、下北沢か中野あたりの劇団とコラボするという展開も、ありですね。 さらに、ありなのは、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんの演劇の劇中映像制作かな。 * 絵画棟5階の藤森詔子さん (油画 修士) の部屋。 ハプニングのなかの人物たちを丹念に描いていますが、子供も受付嬢もみんな禿頭、髪がない。人間をつるつる頭にして、頭髪による語りを排除することで、ナマの世界を見せてくれる。 このアプローチは、ありそうで なかなかなくて、じつにいいと思います。 最近あちこちの画廊であきるほど見るのは、頭髪は見せてるけど目は隠し、あるいは顔面全体を隠した人物たち。 顔や目に語らせることをあえて避けて、人物存在を 「純化」 させるという論理。でも、ぼくから見れば単なる 「戦線離脱」 じゃないかと。顔や目という、難しいところで勝負するのを放棄してるだけ。 人物から何かを剥ぎ取って純化させるなら、藤森さんのように頭髪を剥ぎ取るのは、ありだと思うわけですね。 2.3 m × 5 m のパネル4枚の禿頭群像の油画大作 「終わり、そして世界は始まる」 は、見ごたえあり。この日に見た絵画作品のなかで、突出して、よかった。 版画がまた、いい。「流動と痕跡」。「此岸の欲動」。この日に見た何十人ものひとたちの平面作品のなかで、買いたいと思った作品はこの2点だけ。 アーツ千代田3331 の Gallery Jin さんでお取扱いだそうです。 この版画のモチーフから作られた立体作品も丹念でじょうず。 藤森さんは、造形と色彩の両方でいいセンスしていて、注目すべき作家だと思いますが、もっか所属画廊がないとのこと。 ジャンル的にみて、Gallery MoMo さんがぴったりでは? とご本人にはお伝えしましたが、さてさて。 * 大学美術館の工藝展示で注目は、若林真耶さん (鍛金 修士) が 1.2 mm から 1.5 mm の銅板をたたいて産み落とした獣装少年戦士像 「守護者」。 少年の肌の表面は極小のビーズのような仕上がりに見えますが、じつは銅板の表面にガラス粉をまぶしたもの。肌色は、磨いた銅の色がガラス粉をとおして透けて見えることで生み出されている。 甲冑の革の部分は、銅の表面に鉄漿(おはぐろ)を塗って。 きらりと光る金具は、銅の表面にラメを塗って。 螺鈿細工かとみえた目は、ご実家のガラス細工の技だそうです。 現代の需要にこたえる作品ジャンルだと思うので、これからの活躍に大いに期待です。 * 大学美術館の日本画は、いかにも岩絵具をケチったような作品が多くてガッカリでしたが、朽ちゆく肉食鳥群を描いた金澤 隆さん (日本画 修士) の作品 “scavenge” だけは見ごたえあり。 彫刻作品では、中里勇太さん (彫刻 修士) の、疾駆する狼5匹の群像の木彫 「影を見た」 がいいと思いましたが、時間不足で彫りの作業が十分できなかったのでは? と思われるところも。 陶藝作品では、中嶋 綾さん (陶藝 修士) の The Teapot Series がいい。 アリスの茶会でそのまま使える。ぜひ商品化してほしいです。 ぼく、プロデューサーをやらせてもらってもいいかな。商社マンのビジネス感覚もくすぐる出来栄えです。 美術館入口の床に展示された太田正明 (木工藝 修士) の朱と白木の作品群 「やしろ」。 和楽器の姿に触発されたのかと思ったら、なんと伊勢神宮の建築部位を抽象したもの。 気さくな作家さん。あ、このひとなら、デパートの美術部に好かれるな、と思いましたね。 というわけで、これが平成25年1月26日に2時間半ほどまわった感想です。1月27日にもじっくりいろいろ回る予定です。

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