カテゴリ:ポルノ規制と表現の自由
↓◆児童ポルノ 与野党で法案の一本化を急げ(6月21日付・読売社説)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20090620-OYT1T01029.htm 以下記事本文を引用しつつコメントしていきます。 ----------- 児童買春・児童ポルノ禁止法改正案の国会審議が遅れている。 児童ポルノを私的に利用する「単純所持」禁止を盛り込んだ自民、公明の与党案は、昨年6月の提出以来、実質的な審議はなく、今国会には民主党案も提出された。 両案は、子供たちを性的虐待から守るための規制強化では一致しており、大きな隔たりはない。法案を一本化するなどして、早期の成立を図るべきだ。 現行法は、児童ポルノを他人に有償無償を含め提供する目的で所持することなどを禁じている。 単純所持禁止は、10年前の法制定の際にも検討されたが、個人の嗜好(しこう)やプライバシーの侵害につながるなどとして見送られた。 しかし、インターネットの普及で児童ポルノの拡散は急速に進んでいる。単純所持が禁止されていない場合、警察がパソコンを押収しても、児童ポルノ提供者を摘発するのは難しい場合が多い。 主要8か国(G8)で単純所持を禁止していないのは、日本とロシアだけだ。日本が単純所持を容認していることが、国際捜査協力の支障となっている。 与党案は、児童ポルノを「みだりに」所持することを禁止し、「性的好奇心を満たす目的」で所持した場合に限り罰則を設けた。 民主党案は、代金を払うか、繰り返して取得することを禁じた取得罪を設け、与党案の単純所持罪より重い罰則を設けた。 一致点を見いだすことは、それほど難しくないはずだ。 --------------- えーとね、ここまでの文脈は、 <子どもを性的虐待や性的搾取から守るための法規制>としての児童ポルノ禁止法が、十分に機能していないから、より効果的にするために「単純所持」ないしは「取得罪」を設けるべき、という点で、与党案と民主党案が一致している、ということよね。 で、太字強調した<単純所持が禁止されていない場合、警察がパソコンを押収しても、児童ポルノ提供者を摘発するのは難しい場合が多い。>というのは、「単純所持」と「他人に提供することを目的として所持」の区別がつきにくいということなんでしょうか。それともユーザーから提供者をたどっていくためには「単純所持」の人のパソコンやメディアを調べる必要がある、ということなんでしょうか。まぁ、データを持っている人がユーザーなのか発信者なのかはネットの世界では一見したところではわからないですもんね。ケータイユーザーの中高生だって「わいせつ画像」の発信者にはなりうるわけですから。 与党案の「みだりに」というのは所持しているデータやメディアの数の問題?「性的好奇心を満たす目的」かどうかは、調べてみないとわからない問題だから、捜査令状をとって調べる段階では、とにかく「持っていたら×」ということになりますよね。 <日本が単純所持を容認していることが、国際捜査協力の支障となっている>というのは、海外発の児童ポルノを購入、所持している日本人ユーザーがいるってことなのか、単純所持容認のために日本からの児童ポルノ発信が防げずにいるということなのか、どっちなのかな。 いろいろ?はあるのだけど、「子どもの性的虐待」「性的搾取」の防止という目的、それ自体には賛成してます。ただ、その目的を達成するのに「単純所持」の規制は有効かというと、あんまりそう思わないんですよ。 それより「法」が濫用される危険性があるのが嫌ですね。 銃刀法だって、公然猥褻だって、恣意的な運用は実際にされているわけですから。 引用を続けます。 -------------- 児童ポルノの規制を進めていくためには、ネット事業者など民間団体の協力も欠かせない。 警察庁は、プロバイダーが違法なサイトへの接続を遮断する「ブロッキング」制度の導入に向け、ネット事業者らと児童ポルノ流通防止協議会を発足させた。今後、技術面などの検討が行われる。 児童ポルノに類したマンガやアニメなどについても、欧米では規制する国が増えている。 最近は、少女らをレイプして妊娠・中絶させる過程を疑似体験する日本製パソコンゲームソフトが国際的に出回り、英国議会などで批判された。 この問題を受けて業界団体は、性暴力を扱うゲームソフトの製造販売を禁止することを決めた。 児童ポルノのゲームなどに対する規制も、与党案は今後の検討課題として盛り込んでいる。「表現の自由」とのかねあいもあるが、児童保護の観点から積極的に議論すべきだ。 (2009年6月21日01時43分 読売新聞) -------------------- で、この後半の<マンガやアニメなどについても、欧米では規制する国が増えている>についてですが、この「規制」には、アメリカの例の『2003 Protect Act』が参考になっているのでしょうね。この『2003 Protect Act』は、マンガ、アニメ、ゲーム、お人形、など、表現物の形態がなんであれ、「児童ポルノ」に当たるものは単純所持も禁止するという法律ですから。なんだか、「子どもを性虐待から守る」を逸脱して、「子どもを性的な対象として扱うものは、イメージを持つこともすべて許さない」という、モラル・パニックに近い状態を感じるんですよね。なにしろ、この『2003 Protect Act』はブッシュ政権の元で成立してますから。 もちろん、治安の問題も大きい上、経済格差が日本よりもずっと深刻で、貧困をベースにした子どもの性的虐待や性的搾取も深刻であろうアメリカ国内において、「児童ポルノ」の持つ問題の大きさはたぶん日本よりもずっと重いものがあるだろうとは思いますし、過剰反応に見えるものも、それなりに意味があると考えることもできます。 ただねぇ、この<マンガやアニメ>が相当部分日本発のもの…つまり、ある意味、ジャパン・バッシングの一つ…文化闘争の側面があるんじゃないかと思うんですよね。日本発のオタク・カルチャーは世界の若者に波及していますからね。…例えば、アメリカの『2003 Protect Act』の基準を参考にすると、金髪の15歳の少年と黒髪の30がらみ軍人がからむような801本なんて当然規制対象になります。でも、そういう文化が日本から発信されているわけですから… でもって、日本政府の側に、コンテンツ産業を育成し今後の日本経済の動力にしていきたいという政策的思惑が働くと、問題視される部分を切って落として、「安全で売りやすいもの」というジャパン・ブランドを作るためには「創作物の規制も必要」と考える人がでてきても不思議じゃないと思うんですよ。 しかも、18禁などのエッチなマンガには、コミケを中心にした裾野の広い同人マーケット(ブラック・マーケット!)という、通常の資本制の枠に収まらない動きがあるわけで…というか、そういうものがあるよという話をベネチア・ビエンナーレで披露してきたでしょ。 同人誌は業界団体の自主規制の枠からははずれてしまうから、流通段階の規制ではうまくコントロールできない。制作段階にメスを入れるしかない、ということになるのじゃないかしら。 でもって「単純所持」「取得罪」が入ってくると、まず、「単純所持」の場合は自分で描くこともままならないことになりますよね。ロリやショタは描いちゃダメということ。だって、もろに「性的好奇心を満たすため」の場合が多いわけですから。だからこその18禁でしょ。どんなに言葉を連ねてもそこは否定できないと思います。「取得罪」だと自分で描いて保管しておくのはOKだけど、買っちゃダメ、もらっちゃダメ、ということで、同人マーケットやクローズドのネット・コミュニティも規制の網をかけることができます。 もちろん、ポルノ表現の持つ「性差別」をそのまま容認していいと思っているわけじゃないし、ポルノ作品に触発される性犯罪だって実際にあるのだけれど、「法規制」で目の前からなくすことは「性差別解消」の役にはたたない。というより、「隠す」という「性規範」「性道徳」だってあるし、その「隠す」ことがまた性差別を再生産する仕組みになっていたりする…ほんとに悩ましい問題です。 とりあえず、実際の「児童買春」「性虐待、性的搾取を手段として作られた児童ポルノ」を防止するための施策を充実させるのが先、そして、子どもたちが自分の性的主体を守ることができるように、危険回避と虐待避難ができるような仕組みをつくること(既存の施設利用も含めてより有効な方法をつくること)、さらに言うなら、保守派が嫌いなリプロダクティブ・ヘルス・ライツにもとづく性教育を実施して(学校じゃ無理だろうなぁ・・・)男女問わず、性的志向がどうあるかを問わず、性に関する自尊感情を持つことができ、かつ他者の性的主体も尊重できるようにすること、が大事なんじゃないかと思うわけです。まずは自分自身を理解し受け入れることができなかったら、他者を理解し尊重するなんてできるわけがないのですから。 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.06.22 03:00:19
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