ユウとはなうた

二日前の出来事。

部長がたくさんの見積書と、下請け会社からの請求書を持って来た。
これらを参考にして請求書を作成して欲しい、と。

何枚か作ったところで「あれ？」と思うものが出てきた。
下請け会社からの請求書の明細には

『 Ａ社ビル 電気設備点検費　○○円
　Ｂ社ビル 電気設備点検費　△△円 』

と、書いてあるのに
部長から渡された見積書は『Ａ社』宛ての分しかなかった。

ははーん。部長、またちゃんと見てないな。
明細をよく見ずに出して来たな。

早速、部長の元へ行き、聞いてみた。



私「部長、すいません。これ、『Ｂ社』宛ての見積書ないですか？」

部長「ん？あ、これ？ないよ」

私「え？？ないんですか？じゃ、『Ｂ社』には金額いくらで請求したらいいですか？」

部長「ん？そんなん出さないよ」

私「え？？」

部長「この請求書に対する見積書は渡したやろ？さっき。あれの通りでいい」

私「さっき渡してもらったのは『Ａ社』宛ての分しかありませんでしたよ」

部長「いいんやって！それで！それに含まれてるから！！」

私「えええ？？『Ｂ社』の電気設備点検費を『Ａ社』に請求？？ですか！？」

部長「だから！それでいいんやって！！とにかく早く請求書出して！支払いもせなあかんから！」



４ヶ月前の私なら何の疑いもなく、言われたまんま作業してただろう。
２ヶ月前の私なら「おかしいな」と思いつつも、言われたまんま作業してただろう。

しかし、私はもう騙されない。
もう、もう、もう、絶対、騙されない。

いや、部長も別に騙してるわけじゃないんだろうけど。
にしても、だ。

部長の指示通りってのは危険だ。
自分の身は自分で守るしかない。

恐ろしい。
無事に進めるか、地獄を見るか、ここが分かれ道だ。

どうするよ？私。
これ以上話しても「いいから！」で押し切られるのは目に見えてる。

でも「おかしい」と思った自分を信じたい。
なぜなら地獄（ライオン火山噴火）を見たくないからだ。

いや、見るのはいい。
巻き込まれるのはごめんなのだ。

ああ、でも、何て言えばいいんだ？？
今の部長は完全に「聞く耳持たず！」の体勢だ。

くそー。なんで、こんなほのぼのした社内に於いて、この様なサバイバル精神剥き出しの体勢で仕事せなあかんねん。
部長め、おとぼけた顔して恐ろしいオヤジだ、全く。

とにかく部長の「いいから！！」は良かった試しがない。
それに、どう考えてもおかしいだろう。

『Ａ社』と『Ｂ社』が同じ関連会社なら「そういう事もあるのかな？」と思ったかもしれない。
しかし今回の場合、どう考えても二つの会社は全く別の会社で、何の関係もない、と思われる。

やはり。
このまま引き下がってなるものか。


「すいません、部長。この請求書は私には理解できないので作れません」


キッパリ言い切って、部長の机の上にその請求書を置いてやった。
「失礼します」と、そのまま席に戻ろうとすると・・・


部長「ああー、ちょっと待って！とりあえず、この『Ａ社』の分だけ請求書作って！後はちょっと調べます、調べてまた言います」



なんじゃ、そりゃ。
調べるって、何を？？

見積書、あんたが作ってんでしょ？
下請け業者とのやり取りも、全部あんたでしょ？

わけわからん。



で、それから二日経って今日。

「はなうたさん！これ、作って。この見積書で」って、部長、普通の顔して持って来たよ。
当たり前だけど、『Ｂ社』宛ての見積書。

って、言うかね。
恐くない？？

全然関係ない会社の『電気設備点検費』とか請求されたら。
顧客もビックリやわ。

そんな会社、信用なくなるっちゅうねん。

そりゃ下請け会社の請求書には『Ａ社』も『Ｂ社』もまとめて書いてあるよ。
だって、うちが「Ａ社とＢ社の電気設備点検してください」って依頼してんだからさ。

でも、うちが出す請求書は『それぞれの会社に』でしょ。
何、トチ狂ってんだ。部長。

しかも、なんで二日もかかるんだよ。
ほんま、危険すぎる。

危険な男や。
『ちょいワル』ちゃうで。

『だいぶワルい』で・・・





そして私は日に日に、危険回避能力を高めていくのであった。
どうだ、うらやましいだろう。