カテゴリ:🔴 J 【日本】【考古・人類学】
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―――― ◇ ―――― 日本が誇れるものってナニ? この20年を振り返る ●吉川昌孝のデータで読み解く日本人: 30年以上にわたり生活者を研究し続けてきた「博報堂生活総合研究所(生活総研)」。同研究所の主席研究員である吉川昌孝氏が、生活総研オリジナル調査「生活定点」などのデータを用いて、“時代の今とこれから”を読み解きます。 「生活定点」とは、1992年から20年間にわたって隔年で実施している時系列調査。衣食住から地球環境意識に至るまで、人々のあらゆる生活領域の変化を、約1500の質問から明らかにしています。現在、生活総研ONLINEで20年間のデータを無償公開中。こうした生活者データから得られる“ターゲット攻略のヒント”はもちろん、ビジネスパーソンの日々の仕事に役立つ“データを読み解く技術”などもご紹介していきます。 ---- ●著者プロフィール:吉川昌孝 博報堂生活総合研究所研究員、および動態研究グループ・グループマネージャー。1965年愛知県生まれ。慶應義塾大学商学部卒、同年、博報堂入社。マーケティングプラナーとして得意先企業のマーケティング戦略立案業務を担当。2003年より生活総合研究所客員研究員となり、2004年より生活総合研究所に異動。2008年より未来予測レポート『生活動力』のプロジェクトリーダー。著書に『亞州未来図2010−4つのシナリオ−』(阪急コミュニケーションズ・共著)、『〜あふれる情報からアイデアを生み出す〜「ものさし」のつくり方』(日本実業出版社)などがある。2008年より京都精華大学デザイン学部非常勤講師。 ---- みなさんは、日本のどんなところに誇りを感じていますか? 『生活定点』では「日本の国や国民について、あなたが誇りに思うことはどんなことですか」という質問で、生活者の皆さんが「そう思う」とするものに○をつけてもらっています。選択肢は以下の16個。 (1)長い歴史と伝統 (2)すぐれた文化・芸術 (3)美しい自然 (4)国民の人情味 (5)国民の義理がたさ (6)国民の勤勉さ・才能 (7)高い教育水準 (8)高い科学技術の水準 (9)経済的繁栄 (10)国民としてのまとまり (11)社会の安定 (12)治安がよいこと (13)格差がないこと (14)質の高いサービス (15)世界への貢献度が高いこと (16)安全な暮らし いかがでしょうか? もちろんこれ以外の誇りもあるとは思いますが、今回はこの16個から、1992年から2012年の20年間で特徴的な動きをしたものをご紹介しながら、日本の誇りの行方について、考えてみたいと思います。 ●落ち込みが続く「教育水準」「安定」「繁栄」 日本の誇りとして20年間下降し続けたのが、「高い教育水準」「社会の安定」「経済的繁栄」の3つでした。3つとも1992年には40%弱から45%前後あったのが、2012年には2割からそれを切る数字まで下がってしまいました。 確かに「失われた10年」はいつのまにか「失われた20年」になりました。株価は大きく下がり、デフレが恒常化しています。加えてお隣の中国の急成長、東南アジア諸国やインド、ロシア、ブラジルなどの成長と比較すると、経済的には成長なき時代、成熟期といった捉え方も一般化しつつあります。 教育についても日本の子どもたちは、世界に比べて劣っているのではないか。また「ゆとり教育」を受けた世代を「ゆとり」と揶揄(やゆ)するようなこともあり、昔に比べると教育水準は下がっているのでは、という捉え方もまた一般化しつつあります。 そして進展する少子高齢化と人口減少。こうした社会環境の変化が、「教育水準」「社会の安定」「経済的繁栄」の数値を継続的に下げてしまったということなのかもしれません。 ●V字回復しつつある「治安」と「国民の才能」 この20年は日本にとって不安が増加する時代でありました。そんな中でも、一度は落ち込んでしまいながら、徐々に回復をしつつある誇りが2つありました。それが「治安がよいこと」(「安全な暮らし」も同様の意味と考えられます)と「国民の勤勉さ・才能」です。 「治安がよいこと」は1994年(81.1%)に8割を超える非常に高い数値を示していましたが、その後急落。2006年には44.1%と実に37ポイントもダウン。しかしそこから徐々に盛り返し始め2012年には66.6%と最高値の8割強のレベルまで急激に回復しています。 それとほぼ同じ動きを示しているのが「安全な暮らし」。調査時点は1996年からですが、「治安がよいこと」とほぼ同様の動きで、2006年に最低値39.9%を記録。最高値の1998年60.8%からこちらも20ポイント以上ダウン。その後盛り返し、2012年は56.1%と最高値の9割以上のレベルまで復活しています。 原因の1つとしては、1990年代後半の青少年による凶悪事件報道の増加が考えられます。しかし最近ではそうした事件の増加が特に見られないことや、世界の状況と比較をした時に、日本の治安のよさを改めて人々が認識したのではないでしょうか。こうした理由から誇りとしての数値が徐々に上昇したと考えています。 さらに「国民の勤勉さ・才能」ですが、1992年に最高値57.1%、最低は2000年の36.3%でこちらも20ポイント以上ダウン。その後は徐々に上昇し始め、2012年には49.3%まで回復しています。 この理由もいろいろ考えられますが、2つの事実がそれに影響していると思います。1つはノーベル賞。日本人の才能の優秀さを感じさせるひとつの事実として考えてみました。2000年以降のノーベル賞の受賞者を見てみると、2000年1人、2001年1人、2002年2人、2008年3人、2010年2人、2012年1人で計10人。1949年から1999年までの50年では8人だったことを勘案すると、2000年以降は“受賞ラッシュ”と呼んでもいい状況です。 もう1つの事実がオリンピックのメダル数です。戦後オリンピックの金メダル獲得は1964年東京オリンピックの16個が最高でしたが、2004年のアテネオリンピックでは同じ金メダル16個、しかも金銀銅の3つを合わせるとメダル数37個と今年のロンドンオリンピックの38個に次ぐ数字を達成しています。ノーベル賞やオリンピックなど世界の舞台での日本人の活躍が目立っているのは、実は2000年代からこれまでなのです。こうした事実が日本の誇りとして「国民の勤勉さ・才能」をV字回復させたのではないでしょうか。 ●V字回復を達成して伸張し続ける「義理がたさ」と「人情味」 V字回復しつつあるのは「治安」と「国民の才能」でしたが、いったん深く落ち込んだものの、完全にV次回復し、それまでの最高値を21世紀になってから更新した2つの項目があります。それが「国民の義理がたさ」と「国民の人情味」。2つの概念がともにV字回復を達成し、現在も一緒に伸び続けているというのが、興味深いと思います。 「義理がたさ」は1998年に31.0%とそれまでの最高値を記録、その後2002年に22.2%まで下降。そこから上昇し続け、2010年にそれまでの最高値を超え、2012年39.0%と上昇し続けています。「人情」も同様の動き方で、1996年に40.1%とそれまでの最高値を記録した後、2000年の28.7%と下降し続け、その後回復。こちらも2010年にそれまでの最高値を超え、2012年は48.9%と最低値から実に20ポイント以上も回復しています。 どうも私たち日本人は21世紀に入るか入らないかの頃から「日本人の義理・人情のよさ」を、再評価し始めているようです。『ALWAYS 三丁目の夕日』が大ヒットしたのも2005年でした。経済が本格的に成熟する時代、人口減少の時代を迎え、日本人が本来持っていた性質(DNA的なもの)で、何とかこの厳しい時代を乗り切ろうとしているのが、今の日本人なのかもしれませんね。 ●これからの日本の誇りの期待の星は「質の高いサービス」 それでは最後に、この失われた20年という厳しい時代の中でも、日本の誇りとして急上昇した項目をご紹介しましょう。それは「質の高いサービス」です。1992年には21.2%あったものの、2000年には10.8%までダウン。その後伸張を続け、2012年には35.2%まで上昇しています。 前述の「国民の義理がたさ」「国民の人情味」同様のV字回復タイプなのですが、ここまで大きく回復しその後も大きく伸張した項目はありません。サービスの質の高さとは、どれだけデジタルなコミュニケーションやソーシャルメディアといったインフラが浸透しても、求められるものであり、世界のフラット化がいかに進もうが、他国に対して日本が唯一無比の価値を発揮しうる領域であると、日本の生活者が感じ始めているのでしょう。 「おもてなし」や「ホスピタリティ」という言葉がよく聞かれますが、それは日本人だから提供できる価値という意味で、同じことをさしているのだと思います。今後、日本が21世紀を生き抜くためには、V字回復を達成した「義理人情」を内包し、回復しつつある「治安のよさ」と「勤勉さ・才能」も生かした、独自の質の高いサービスを実現することが、求められると考えられます。 そして最後にひとつ付け加えるなら、16項目の中で「日本の誇り」として、最も数値が高い3つはトップが「治安のよさ」であり、2番目が「すぐれた文化・芸術」、3番目が「美しい自然」なのです。この3つこそ日本が世界に誇りうるすばらしい“資産”であり、この3つ抜きには、これからの日本の誇りづくりは考えられないというのも、また事実であると思います。日本ならではの新しい高品質なサービスを提供していく際には、こうした要素も当然活用していくべきと考えます。 ―――― ◇ ―――― 後で、私の意見を(if any)、書き加える(かも知れない) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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