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ーーー 記事 ーーー トランプ王国、冷めぬ熱狂 集会「ヒーロー凱旋だ」 ヤングスタウン=金成隆一 2017年7月31日05時01分 トランプ勝利「象徴の地」、さびついたままの日常 7月中旬、ニューヨーク支局で仕事中、携帯が鳴った。画面が示す。「フランク@オハイオ州ジラード」 出ると、いつもの大声が響いた。「もう聞いてるか? ビッグニュースだ。トランプが来週、ヤングスタウンに来るんだ。ヒーローの凱旋(がいせん)帰国だぞ」 ジラードは一帯で製鉄業や製造業が廃れた田舎町。隣町ヤングスタウンは、全米に知られる労働者の街だ。大統領トランプが政権半年の節目の集会場所に選んだのは、自分を熱狂的に支えたラストベルト(さび付いた工業地帯)だった。 電話の主は、大工のフランク・ビガリーノ(43)。トランプの選挙戦に没頭し、政権の半年を絶賛する支持者の一人だ。 「トランプは有言実行の指導者だ。世界中の圧力にさらされても、パリ協定や環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱を約束通りに決めた。そこらのナイーブな政治家じゃ、こんなことできない」 トランプの評価となるとますます声が大きくなる。 特に感激したのは、地球温暖化対策の国際ルール「パリ協定」からの離脱表明だという。国際社会が世界2位の温室効果ガス排出国なのに無責任だと批判する中、トランプはかまわずオバマ前政権の国際公約を葬った。 フランクは30歳代になって大学で石炭火力発電を学び、苦労が実って電力会社に就職した。クリーンエネルギーの時代に入ろうとしていたが、この地域では長らく石炭は安定した雇用の代名詞だった。ところが環境規制に厳しいオバマ政権下で発電所が閉鎖され、2009年に解雇された。 「一党独裁の中国の排出削減をどうやって確認するっていうんだ。協定で損をするのは米国。だから脱退するんだ。トランプ流の米国第一主義だ」 ニューヨークは雰囲気が全く異なる。酒屋前にこんな看板がある。「彼のツイートを読む前に飲んでおこう」。酔っ払わないと、好き勝手に周囲を罵倒する大統領の言葉など見られないという意味。都市部では今もトランプは冷笑の的だ。政権発足から半年の支持率も36%と歴史的な低さ。抗議活動もやまない。主要メディアは政権の問題を連日伝える。 別の国かと錯覚するほどの落差。電話を切って、しばらく考えた。かつて取材したトランプ支持者たちの今の思いが知りたい。トランプの集会を目指した。 25日、集会開始の半日前から長い列が出来ていた。元製鉄所勤務のマーク・ラプマード(60)もいた。 マークはかつて製鉄所の溶鉱炉で汗だくになって働いた仲間ジョセフ・シュローデン(63)と来ていた。2人は民主党を支持する典型的な労働者だったが、昨年の大統領選で初めて共和党トランプに投票した。 トランプが夫人メラニアと登壇した。会場は歓声に包まれ、無数の「米国を再び偉大に」「ヘドロをかき出せ」などのプラカードが揺れる。トランプは選挙中と同じ調子で民主党を批判し、メディアを「フェイク」とこきおろす。現職大統領の集会にしては異様な雰囲気だ。 トランプは1人の男性を壇上に導いた。「彼は生涯ずっと民主党員だったのに私に投票したんだ」 マークやジョセフとそっくりだ。2人はまるで自分が褒められているような表情で舞台を見つめている。 トランプはすかさず雇用重視の姿勢を示す。「仕事を取り戻す」「工場をフル稼働させる。もしくは(古い)工場は潰して、新品の工場を建てましょう」 腕を組んで聞いていたマークがつぶやく。「彼はがんばっているね」。異端児が首都に乗り込み、ベテラン議員やメディアに非難されながらも平然としている姿勢がいいという。 集会後、記者は帰宅する2人の車に同乗した。トランプの公約の多くが頓挫していること、資質が疑われていることを列挙し、「本当に失望していないのか」と重ねて聞いた。世界からの米国の評価が落ちていることも伝えた。 ハンドルを握るジョセフが言った。「この街で暮らす俺たちは政治家がやるといってやらないことに慣れている。トランプが約束の1割でもやれば十分だよ」 =敬称略(ヤングスタウン=金成隆一) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017.07.31 08:00:10
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