精神科医の斎藤環氏は、季刊雑誌「SIGHT」でユニークな「自民党ヤンキー論」を展開している;
◆ヤンキー化する自民党の政策
編集部 自民党の勝利と、日本全体のヤンキー化とのリンクということに関しては、斎藤さんはどのあたりから感じられていたんですか?
斎藤 日本にはこれまでも、連綿とヤンキー的なものはあったと恩うんですけれども。今回の自民党の支持層のあり方、振る舞いとか、あるいは憲法改正草案の中身などを見るにつけ、本当にヤンキー的なものが前面化してきたな、という感じがあって。これについては、北海道大学の中島(岳志)准教授が、自民党は保守というけど保守じゃない、何か違う、ということをおっしゃっていたんですね。一番の違いは何かというと、教養がないと。
編集部 (笑)。
斎藤 まったく伝統理解がなくて、ただ単に、非常に表層的なところで気合を入れたがっていると。それ以上のことは書いていらっしゃらなかったので、まだうまく言語化できていないんだろうと思ったわけですが。朝日新聞から取材を受けて改めて思ったのは、自民党は、保守というよりヤンキーと言うほうがしっくりくる。初めは酒落で言っていたんですけど、いろいろ検証していくと、だんだん酒落じゃなくなってきて。
編集部 (笑)。
斎藤 本当にヤンキーくさい政党だということがわかったわけです。ツイッターに書いたんですけど、一番ヤンキー度が高いのは維新の会なんですよね。自民党はそれに次ぐ感じで。少年誌でいったら『(少年) チャンピオン』が維新の会で、ヤンキーからオタクまで押さえてる『(少年)ジャンプ』が、自民党だと。全国民にアピールするという点では、非常に強い政党だということが改めてわかったわけです。
一番印象的だったのは、やっぱり憲法改正のあり方ですね。東大法学部を出た片山さつきさんが、人権解釈を間違うという大変な不祥事をやっていましたけれども。憲法改正案の中に、はっきりと、とんでもないことが書いてあるんです。つまり、自由と権利には責任と義務が伴うと。これは典型的な誤解の事例で。個人が権利を要求するとしたら、国はそれを保障する義務があるという対(つい)なんですけど、自民党の解釈は、義務を果たした個人のみが権利を行使できる、ということにすり替わってしまっているわけですよね。実はこの解釈は結構日常に浸透していて、我々はなんとなく、それが正しいと思い込まされているところがある。この一種の自己責任というか、自助・自立の称揚のような部分というのは、非常にヤンキー的な精神とマッチするところがあるんですよ。がんばった奴が報われる、気合入った奴が偉いという、そういう倫理観といいますか。それは一見正しさを持っているので、広く受け入れられてしまうんですね。
これが悪用されると、生活保護問題のようなことになる。生活保護は、当然、基本的人権の経済的保障ですから、要求されたら支給しなければいけないものなんですけど、自民党の解釈によれば、がんばってハンデを越えられなかった人だけが受給できる権利があるという、ねじれた理論になってしまっている。だから、水準を引き下げようという動きになっているわけですよね。ここで重視されるのが、個人の努力と、それをサポートする家族の絆です。この絆と自立の強調というのが、すごくヤンキーくさいところで。絆は本来、軛(くびき)のようなもので、拘束具という意味しかなかったのに、いつの間にかうるわしい言葉にすり替わっているというあたりが、ヤンキー的解釈の賜物という感じがしますね。
絆を称揚するというのは、すごくよくできたロジックになっていて。要するに、絆が何を保障するかというと、弱者保護なんですよね。弱者とは、かつては精神障害者がそうでしたし、ひところは高齢者、今は若者ですが、絆はうるわしいと言ってしまうと、じゃあ、病気になってしまった人も、年寄りも、働けない若者も、全部家族の絆でなんとかしましょうよという話になる。言い換えると、福祉にコストをかけなくてもいいという発想になってしまうわけです。国が大きな政府として再分配をするのではなくて、むしろ家族が自助努力でがんばって、あとは絆で、弱い人も全部サポートしてくれたら、国のほうは、一生懸命経済を盛り上げていればそれでいいというふうな、大変わかりやすい話になってくる。
まさに安倍政権が、経済を第一に置いて、公共事業のほうにどんどん投資を始めようとしていますけれども、こういった流れもすごくわかりやすい。とりあえず景気がよくなれば、アゲアゲのノリでなんとかなるべ、みたいな勢いがすごく感じられるわけですよね。ヤンキー評論の第一人者、速水健朗さんが僕の本(『世界が土曜の夜の夢なら ー ヤンキーと精神分析』角川書店)の書評を書いてくださったんですけど、そこで、ヤンキーは放射能が怖くないんだということを書かれていて。速水さんが海水浴に行ったら、ヤンキーばっかりいたと (笑)。
編集部 (笑)。
斎藤 すごく牽強付会だとは思うんですけど、ヤンキーはどうも、気合で放射能はなんとかなると思っているフシがあるらしいんですね(笑)。だから自民党政権になって、原発ゼロの方針がまた戻ってしまって、再稼働をどんどん広げようという動きになりかねない勢いなのも、自民党のヤンキー体質が如実に露呈している部分なのかなと。「放射能怖くないぞ」みたいなものがあるんじゃないかと感じる部分があります。
季刊「SIGHT」2013SPRING 71ページ「自民党は、保守というよりヤンキー政党である」から引用
教養が無いというのは、恐ろしいもので、放射能も気合を入れれば何とかなるなどと言う発想で原発再稼働などをやられたのでは、たまったものではありません。自由と権利には責任と義務が伴うなどというフレーズも、いつのの時代だったか自民党の政治家が言い出したことで、民主主義やわが国憲法の立憲主義とはかなりズレた発想です。こういうヤンキーの風潮が勢いをつけると、いろいろと世の中を動揺させるような言動が出てきますから、私たちは冷静に、近代民主主義がどのように発達し、これからどのような未来を切り開くべきか、よく考えたいものでございます。