きのう引用した斎藤環氏のインタビュー記事の続きは、次のように、わが国のヤンキーの動向と如何にして自民党に浸透したか、解説している;
◆日本人はみんなヤンキーが好き
編集部 ヤンキーというと、我々にとっては、どこか別のところにいる一部の変わった人たち、みたいな形で外部化してしまっていますよね。でも、日本にヤンキーというのはもっと浸透していて。僕が特に驚いたのが、斎藤さんが指摘されている南中ソーラン運動なんですが。あれは一体なんなんですか?
斎藤 知らぬ間に、中学校現場をソーラン節が席巻していて。若い子に訊くと、結構たくさんの人がソーラン節を踊らされたというんですね。90年代初頭に、北海道で南中ソーランというのが流行って。都市伝説なんですが、南中ソーランによって、ある中学校が非行化から立ち直ったというんです。ソーラン節をロック調にアレンジした歌で踊らせることで、不良の更生に役立てたという話があるんですね。これを掬い取ったのが『(3年B組)金八先生』なわけです。『金八先生』のあるシリーズで、最終回のクライマックスが、全員でソーラン節を踊るシーンで。これは、私の知っている『金八』じゃないという感じがあってですね(笑)。実は『金八先生』というのも、すごくヤンキーくさい番組だったんだな、ということがなんとなくわかってきた。考えてみると、日本の教師ものってほとんどヤンキーっぽいじゃないかということが逆証されてきた。『ごくせん』然り、『GTO』然り、大体ヤンキーが教師になって、生徒を善導するという話が骨子ですよね。それに対する教師もので、たとえば『鈴木先生』なんていうのはアンチヤンキー的な番組だったんですけど、視聴率は2%ぐらいしかなかったということで(笑)。
編集部 (笑)。
斎藤 ダメなんですよ。教師ものはヤンキーくさくないと受けない。だから、ヤンキーは本当に幅広く受け入れられている文化なんですね。これは私が発見したわけではなくて。ナンシー関さんという偉大な先駆者が、「芸能界ってヤンキーじゃない?」ということをある時点から言いだしているわけです。実際、ヤンキーが支持する音楽というのは、矢沢永吉から浜崎あゆみに変遷したりとか、今はXEILEで、ちょっと先祖返りみたいなものがありますけれども。ヤンキー文化の拡散と浸透ですよね。かつては、コアに非行体験がないとヤンキーとはいわなかったわけですけど、今は非行体験抜きのヤンキーみたいなものが、ある種のバッドセンスの系譜として、すごく浸透しているという強い実感があります。特に音楽業界は典型で、たとえばB’zは、基本的にヤンキー御用達の音楽ですよね。あとは、DJ OZMAとか気志團とか、そういう系譜もありますし。
日本の論壇を見ていると、論壇人はオタク上がりばっかりなんですよ。だからオタク分析はすごく進んでるんですけど、ヤンキー分析は-速水さん、ナンシーさん、あるいは新書で『ヤンキー進化論』を書いた難波功士さんもいらっしゃいますが、まだあまりなされていないという実感があったので。これはやっておいたほうがいいと思って始めたら、今年に入って、いじめとか体罰とか、AKB(48)の丸坊主問題とかですね、ヤンキー的事象が続々と出てきて。本当に、気流が変わってきたのかなという感じが、新たにしているところですね。
編集部 お話を聞いていて、自民党のヤンキー体質がすごくラディカルに表れたのは、小泉純一郎以降なのではないかと思ったんですが。
斎藤 小泉さんに関して言えば、確かにX JAPANが好きだったりとか、ヤンキーつぽいものを持ち合わせつつも、一方でオタク気質も持っているという、ちょっと特殊な方で。吸血鬼映画のファンで、ひとりのときはそればかり観てるとかですね、単独行動を好む人ですよね。徒党を組まないあたりは、ちょっと違うかなという感じがするわけです。なにしろ大勲位・中曽根康弘を年齢を理由に切り捨てている。ヤンキーは、基本的に絆と仲間を大事にしますから。そういう意味では、安倍さんのほうがはるかにお友達を大事にするというか、第一次安倍内閣のときも、閣僚が散々不祥事を起こしても、なかなか更迭できないという弱さがありましたよね。
かつての自民党は、もうちょっと知性というか、教養があったんですよね。大平正芳にしても宮沢喜一にしても。それがどこかでタガが外れちゃったような感じがあって。確かに、小泉さんが一旦、いいものも悪いものも含めて全部ぶっ壊しちゃったので。それ以降、ヤンキー的なものが台頭しやすい素地ができてしまったのかなという気がしますね。
編集部 小泉純一郎に勝つのは大変そうだけれども、安倍晋三に勝つには、やり方があるんじゃないかなという気もするんですね。斎藤さんがおっしゃるように、今、ポップ・ミュージック市場はAKBやEXILEのような、ヤンキー的なものが席巻していて。日本全体が、すごく単純化した言葉を求め、そこに解決策を見ようとしているという傾向があるんですよね。政治でも、維新の会への支持が、一時期すごい勢いでしたからね。
斎藤 そうですね。まあ、私は坂本龍馬もヤンキーのルーツのひとりだと思っているので。キャラだけは異様に立ってますけど、業績が今ひとつよくわからんという意味でも。「維新」っていうのはリストアなので、革命ではないんですよね。新しいことに見せかけて古きに戻すというか、そういうニュアンスを多分に含んでいるので。字面だけ新しそうに見えますけれども、非常に危険なものを感じるなと。
編集部 維新の会は、四文字熟語とか好きですから。
斎藤 (笑)「船中八策」とかですね。
編集部 暴走族も同じですよね。あれはなぜなんですか?
斎藤 基本的に彼らは、様式を愛する傾向が強くて。特攻服が典型ですけど、カラフルな特攻服とかはあっても、特攻服の様式だけは廃れない。改造車に関しても、あの美意識はこの30年あまり進歩してないというか(笑)。ある意味、伝統に忠実とも言えるし、様式を残しながらどこかリニューアルしていく部分もある。伝統っぽいものにすがりたいという思いがあるんでしょうね。本でも例に出しましたが、最近のラーメン屋なんかはそんな感じで。店員は作務衣を着て鉢巻巻いて、腕組みして、というスタイルが典型になってますけど、あれはヤンキーセンスを如実に体現していますよね。作務衣って伝統っぽく見えますけど、ルーツは1990年代ということで、いわばフェイクの伝統です。でも、そういう伝統っぽいものや様式っぽいものって、どこか我々を安心させる部分がある。それはみんなが、少しずつヤンキー的な部分を持っているからだと思うんですね。
季刊「SIGHT」2013SPRING 「自民党は、保守というよりヤンキー政党である」から74ページ~77PR-ジを引用
斎藤氏が指摘するように、宮沢内閣あたりまでは、自民党にも優れた知性と高い見識を持った政治家がいて、高度経済成長政策などが実行できたのでしたが、それが行き詰まったからというので、小泉首相が「自民党をぶっ壊す」と豪語して、何を壊したのかと思ったら、なんと、ろくに歴史の勉強もしないようなヤンキー政治家が大きな顔をする政党になってしまったとは、呆れた話です。だから、立憲主義の意味も理解せずに、憲法を戦前レベルに戻そうとか、3分の2は煩わしいから過半数に変えるとか、むちゃくちゃな話が出てくる。こういう連中に政治を任せていいのか、有権者は真剣に考えなければなりません。