パワーストーンストーリー エピローグ 「十力の金剛石」
パワーストーンについてのお話をちょっと長く書いてしまいましたが、たくさんの石たちの魅力にうっとりしながら、もうひとつ大切な事を思い出してみたくて このお話をご紹介します。 と言っても、もう既に多くの方がご存知、宮沢賢治の 「十力の金剛石」 。 あるどこかの国の まだ子供の王子様が、同じようにまだ若い村の少年と霧の深い朝、お城を抜け出て いつものように宝物を探しに出かけます。 どうやらこの王子様は宝石が大好き。お城の中にある宝石よりもっといいのを探そうと、威勢よくどこまでも走っていきますが、虹の足元にルビーの絵の具皿があると聞き、虹のたもとまで行ったのですが何もありません。 前を向くと、また遠くに虹がかかっている・・・。どうしても珍しいものを手に入れたい王子は、少年を連れてどんどん歩いて行きます。 そして薄暗い森の中を通った時、たくさんの棘を持ったいばらの幹が王子の服に引っかかり、取ろうとしてもガサガサとややこしくて、王子はついめんどくさくなり、持っていた剣でなぎ払ってしまいます。 すると急に霧が深くなり、雨が降り出しました。何と二人の帽子に飾りとして付いていた小鳥の剥製たちが空に飛び立ち、こう叫びます。 「トパァズ!サファイア!ダイアモンド!」 すると、雨のかわりに 空からパラパラと宝石が降ってきたではありませんか。 宝石の雨は虹を作りながら降り続け、周りをよく見てみると、リンドウの花は 天河石(アマゾナイト)、葉は 硅孔雀石(クリソコラ)で出来ていますし、黄色い草穂は輝く 猫目石(キャッツアイ)、うめばちそう の花びらは 蛋白石、湯薬の素は 碧玉(ジャスパー)、そのつぼみは 紫水晶(アメジスト)、野バラの赤みは真っ赤なルビーでした。 二人は驚き、ぼんやりとそれを眺めていましたが、そうだ!この宝石をハンカチいっぱい家に持って帰ろう!と考えますが、そのうち今度は植物たちが歌いだします。 「こんなに美しい光の丘にいながら、なぜこんなにも悲しい。それは十力の金剛石が来ないからだ。」 「恵みの宝石は今日も降らず!」 「恵みの宝石は今日も降らず!」 何のことか分からない二人の少年は、 「十力の金剛石とは何だい。」 と尋ねると、そばにあった野バラの木がこう言いました。 「十力の金剛石はきらめく時もあります。微かに濁ることもあります。春の風より柔らかく、ある時は円く、ある時は卵形。それはたちまち百千の粒にも分かれ、また集まって一つにもなります。それらは木や草の体の中で月光色にふるい、人の子供のりんごの頬を輝かします。」 その時、空が生き返ったように新しく輝きました。 「ああ!来た、ついに来た!とうとう十力の金剛石が降りた!」 少年たちはその声にふと我に返りました。あたり一面を見渡しても、さっきの宝石たちはどこにもなく、光の波と すがすがしい空気。そして見れば すずらんの葉は本当に柔らかな緑色の草、うめばち草 は本当の柔らかい花びら。 そう。もうお分かりですね。 金剛石とはダイヤモンド。そして十力とは万物の力。理。 自然が少年たちに教えた一番の宝石ダイアモンドとは、雨のあと 太陽に輝く 「露」 だったのです。 本文より 「ああ。そしてそして十力の金剛石は露ばかりではありませんでした。青い空、輝く太陽、丘を駆けていく風、花の その芳しい花びらや しべ、草のしなやかな体、全てこれを乗せ担う丘や野原、王子たちのびろうどの上着や、涙に輝く瞳。全て全て十力の金剛石でした。(中略) あの十力とは誰でしょうか。私はやっとその名を聞いただけです。二人もまた、その名をやっと聞いただけでした。けれどもこの 蒼鷹のように若い二人が、つつましく草の上にひざまずき、指をひざに組んでいた事はなぜでしょうか。」 ・・・・・つまり、十力、全てのものが大いなる力で輪廻し、草も木も自分たちも その中にいる。尊しとするものはこれなのだ。地球上で一番安定し、一番強く、一番美しいダイアモンドの本当の姿はこれなのだ。と、二人の少年が 「自然」 に対して深くひざを折り、手を組む。 これほど美しい光景が、この世にあるでしょうか・・・。 そのうちお城の従者たちが迎えに来ます。王子は従者たちのところへ走っていこうとしましたが、またその時 来た時と同じように さるとりいばら が王子の足に引っかかりました。 けれども王子は、今度はかがんで静かにそれを外したのです。 自然の産物である宝石も、パワーストーンも大好きです。 でも、同じように大切で尊いものの中に 私たちは含まれている。 野バラの中に十力の金剛石が、その一つ一つの細胞の中に染み渡ったように、私たちもまた、太陽や雨や風、光やそれらたくさんの力に守られて生きている事を忘れてはいけませんね。 昔、子供の頃遊びに行った祖母の家の裏庭にあった、大きな桑の葉。 雨上がりに、その葉の中に溜まった露は、確かにどんな宝石より美しかったかもしれません。ではまた来週。