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カテゴリ:事件
いま私の目の前にある一枚の小さなワンピース。 とろけそうな薄桃色から想像できるような、ふんわりと優しい手触り。胸元には、これまたとろけそうにかわいい小さなお花の刺繍が三つ施されている。ショーウィンドーに飾られていたら、立ち止まってため息をつく人もいるかもしれない。そんな素敵なワンピースである。 このワンピースが、日本列島を縦断して、とんぼ返りして戻ってきたなどといったい誰が想像できるだろう。 私はこの服を、 「一度洗濯しただけの美品です」 というコメントを添えて、ネットオークションに出品した。事実、頂き物として頂戴してから、着るつもりで洗濯し、2~3シーズンしまっておいただけの美品である。出品前にはいつものように隅から隅までチェックし、シミ、ほつれなどの不備が何もないことを確認した、正真正銘の美品なのである。 それなのに、落札者の気には召さなかったのだ。 商品が到着して2~3日が経ったであろう頃、私は落札者からのメールを受け取った。一度洗濯しただけとのことだが、どうしてもそうは見えない、ハッキリと確認できるシミがいくつもある、そんな趣旨のメールだった。 私は困った。 メールには、返品したいとも、部分的に返金してくれとも書かれていない。前述のようなシミの記述があるだけで、あとは、お返事お待ちしております、の一言のみ。いきなり評価に書かれるよりはマシであるとしても、とにかく事実無根である。私は困った。 実は以前にも似たようなトラブルがあった。出品前日に一度聴いて何の問題もなかったCD。それに、音飛びがある、とクレームを付けてきた人がいたのだ。そのときは、落札者が最初から指し値して、落札価格 (千円か二千円だったと記憶している) の半額を返金してください、と言ってきたので、ちょっと胡散臭いかなと思いながらも、プレイヤーとの相性もあるだろうしと、私は返金したのだった。向こう一年近く日本に戻れない事情もあったので、そのときはそれが一番の策だった。 そして、今回である。思うに、彼女はこのワンピースが気に入らなかったのではないか。おそらく、他に落札した商品と酷似しているため不要になったとか (※ 調査済み・笑)、期待していたほど素敵な商品ではなかったので欲しくなくなったとか、そういったことなのではないだろうかと私は感じた。そうでなければ、十分、納得できるはずの品なのである。定価の五分の一ほどの安値で落札された品なのである。 とにかく、苦情を言ってきているものは仕方ない。 私は、返品という形を取ってもらうことに決めた。実を言うとその落札者は、それほど迅速・丁寧というわけではなく、メールでの文章もごくごく事務的、強いて言えば、終始、冷たい感じであったため、彼女には得をさせたくないなと思ってしまったのである。だから、一部返金ではなく完全な返品にしてもらおうと、返送にかかる送料も含めた金額を落札者指定の口座に送金したのだった。 そんないきさつを経て送り返されてきた、かわいそうな小さなワンピース。定形外郵便が届くやいなや、私は、開封し、確認した。 やはりシミなどなかった。 言われてみれば、うっすらと影のようなものが見えなくもない。が、もし、これにタグがついて、ハンガーに掛けられて店舗に並んでいたら、何の疑問も抱かず購入する人はいるだろう。彼女は、極端な神経質なのだ。 美品、という表現。広辞苑には乗っていないが、少なくともオークションでは広く通用している言葉。うつくしい品。すてきな品。きれいな品。広義に解釈すればこんなところであろうか。美――。しかし美という語の定規は人によって違う。 ネットオークションを閲覧していると必ず目にする、ノークレーム・ノーリターンでお願いします、という断り書き。昨日までの私は、なんでい、居丈高な出品者でいやがるな、などと口を尖らせたりしていたのだが、そう書かなければいけない相手もいるのだということに、遅ればせながら気が付いたのだった。 次回からはオークションのページに、返品お断り、の文字を忍ばせよう。あわせて、神経質な方は入札をご遠慮ください、と明記しよう。新たな作戦に燃える私、であった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Feb 25, 2005 01:18:27 AM
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