テロ,ライブ더 테러 라이브
あらすじ「これからハンガン(漢江)の橋を爆破する」朝のラジオ生放送中にアナウンサー ユン・ヨンファ(ハ・ジョンウ)が受けたリスナーからの一本の電話。いたずら電話と考えてつれなく電話を切った直後、スタジオ近くのマポ(麻浦)大橋が爆破。爆破テロの実況と引き換えに古巣のTV局への復帰を元上司(イ・ギョンヨン)に約束させるヨンファ。しかし犯人が人質を取って現金と大統領の謝罪を要求したため、実況は交渉力を要するようになり、次第に難航するが...キム・ビョンウ監督長編第一作『テロ,ライブ/더 테러 라이브/THE TERROR LIVE』(2013年)(以下、映画の核心に触れる部分もございます)反権力、反骨を継ぐ者。としてのヨンファ。「親方日の丸」な日本人と相違し、朝鮮王朝時代から庶民の反権力、反骨魂は綿々と続いている。2003年に記していた通り、伝統芸能タルチュム탈춤などに表れているように。そして、アジア金融危機(IMF)以降、特に21世紀以降格差による断絶と「不通」(疎通できない、疎通不能)が深まった社会の時代精神を伝えている。日本で言うところの強者弱者、勝ち組負け組は韓国では甲乙갑을、甲と乙、甲乙関係。テロを独占ライブ実況する放送強者、勝ち組作戦と、左遷先のラジオ局から夜のTVニュースの花形アンカーへの復帰について元上司と合意する時、上司は吸いさしのタバコをヨンファに渡しヨンファはそのままそれを吸う。乙に、負け組に一旦は落ちたヨンファが再び甲に引き上げられる...上に引き上げられるための手を差し出されたかのようにタバコが渡され元上司とは共犯の手を結ぶかのように同じ煙草を吸う。ひとつの煙草をふたりで共有するシーンにふたりの甲(ひとりはto be 甲)の共犯関係が滲んでいたが...後半、テロが進行するにつれヨンファの体に仕掛けられた爆弾が爆破する危険が迫って元上司の言いなりにはなれなくなった時、ふとスタジオにはぽつんとヨンファがいた。それは密室の孤独というものではなく、迫り来る死に封じ込められた、死の空虚さに満たされた空間の圧迫感を感じさせた。TVの花形アンカーからラジオのアナウンサーになった時勝ち組、強者である甲から負け組乙に滑り落ちたと思ったであろうヨンファがいざ甲に返り咲きそうで今度は...人生における甲と乙の断絶、分断ではなく、より深い断絶と奈落、生から死への途絶の深淵を予感させ、はっとした。一方でその断絶はただ一言の謝罪を大統領ができないという、権力者や「甲」たちと「乙」の間の埋められない溝、軋みにも起因する。(大統領が謝罪できないのは...後述するように、橋が過去に歴史に連なるからでもあるだろうが...)思わずヨンファが懇願するただ一言の謝罪。それは韓国内だけでなく世界中にも無数に散らばっている断絶とそれを解く鍵。ヨンファも私たちの多くもこの疎通不能、断絶を解くことができるのはたったの一言だと知っている。一言謝ることが何故出来ないのかという叫びを心に滾らせながら...本作の脚本は2009年に完成していたらしいが、映画製作年の2013年のクォン・サンウ、スエ、ユノ主演SBSドラマ「野王」にも権力を持った勝者、甲が数々の加害、過ちを認めずただ一言謝ってさえくれれば、と乙が譲歩し語りかけても謝罪しようとしない甲と乙の関係が描かれていた。その一言が言えない、言わない、罪を認めて謝罪しない甲の傲慢さ頑固さ独善性が乙との断絶を社会との断絶を生んでいる、という社会認識、時代精神が映画やドラマに共通している。日本ではおよそ哲学クラスタしか目にしない時代精神Zeitgeist。(Google Zeitgeistについては2011年に呟いていた...)韓国で時代精神は政治環境の変化(政権交代)等に伴い変わる知的、政治的、社会的動向であり、今後進むべき方向。ただ、2002年の第16代大統領選挙の頃を経てインターネットを通した世論形成や時代精神の醸成、浸透があり、その後たとえ保守派が大統領に就任しても主流派甲ではない乙の時代精神はもうひとつの時代精神として社会に深く根を広げひそかに息づき現在にも連なっている。今作やドラマ「野王」で「世論に働きかけよう、訴えよう」と主人公たちが言うのは時代精神が時の政権寄り、保守派寄りのものだけではなく、あの2002年ころからインターネットの声が力を持ち市民の庶民の力を集め始めた頃からのささやかな知恵として身体化されたもうひとつの時代精神の存在感、潜在力として作品に投影されている印。(余談だが、チョン・ドヨン、コ・ス主演パン・ウンジン監督『マルティニークからの祈り』(2013年)にも盧武鉉元大統領を経てインターネット等で世論形成、という知恵と力を得た時代精神が染み出ている。甲と乙の関係で、インターネットを活用し一矢報いようとする庶民の身体的知恵、手法も)時代精神は大波小波のように高くなって顕著になったりもし、社会を揺るがす問題が起きると甲と乙、あるいは対立する二者間の断絶を際立たせもするが...今作で皮肉なのはTV局のビルに仕掛けられていた爆弾が爆発しビルが倒壊しながら倒れ込んで行く先が国会議事堂ということ。うす緑の半球の屋根が微かに視界に入る。また、テロが予告され爆破されたマポ大橋が建設されたのは1970年代で現大統領の父が大統領職にあった時代のこと。テロ犯が橋の問題、橋の来歴を話すことで謝罪しない、「不通」な現大統領とその先に連なる元大統領、過去や歴史との連鎖が浮かび上がる。かなり破壊力のある皮肉。リエゾンにブリッジ、橋が架かるようには人々の心に橋が架からないのなら、不通、疎通不能なら...爆破されることも...と、韓国現代史、漢江の奇跡、開発経済の象徴でもある橋は過去の記憶を現在に引き寄せ、未来に接ぐ橋であり、甲と乙の間、相互に疎通不能な二者間に架ける/架からない橋の象徴でもあった。そして冒頭の...反権力、反骨を継ぐ者としてのヨンファ、に戻る。真犯人の父が唯一視ていたというヨンファのニュース。ヨンファに真理、真実と正義、反権力やもうひとつの時代精神の存在感、潜在力を感じ取っていたのではないか...深読みすれば...「謝ることができない人々」はなにも韓国内の話だけではない。狭義の強制性に拘り頑なに元従軍慰安婦への謝罪の一言を拒み続ける日本の姿が謝ることが出来ない者の代名詞のように大きく脳裡に浮かんだ。過ちについて真摯に謝ることすら出来ない国際的な「不通」、疎通不能と断絶まで連想させ、疎通できない為政者の姿は国境を越えて普遍的。国会議事堂の半球の屋根の色は朝鮮総督府の屋根の色と同じ薄緑色、と思い出しながら...ビルが傾くにつれハ・ジョンウの顔が白くなっていく、蒼白になって行く演出が生の光を失っていくようで、心に残った。ふたつの時代精神が鬩ぎ合った後の不通の悲しみと沈んでいく生の哀しみを湛え意思の余韻を白い光の中に残して...イ・デビッドはこの作品でも爆弾を抱えていたから似たような役が続くのか...!?対テロセンターチーム長(チョン・ヘジン)が女性という設定はポリティカル・コレクトネスPCに意識的ゆえ女性設定にした、という時代はもう過ぎて今は次のステージにいる、という現在の韓国映画の中の女性像をあらためて感じさせた。(また別途書く予定...)約90分の上映時間が物語の時制と一致するリアルタイム進行だがかなり前半のある時、スタジオ内の壁掛けアナログ時計が少し遅れているように見えた...のが気になる...to be continued...!?buzz KOREAClick...にほんブログ村 韓国映画にほんブログ村 映画にほんブログ村 映画評論・レビューにほんブログ村 韓国情報にほんブログ村 K-POPにほんブログ村Copyright 2003-2025 Dalnara, confuoco. All rights reserved.本ブログ、サイトの全部或いは一部を引用、言及する際は著作権法に基づき出典(ブログ名とURL)を明記してください。無断で本ブログ、サイトの全部あるいは一部、表現や情報、意見、解釈、考察、解説ロジックや発想(アイデア)・視点(着眼点)、写真・画像等もコピー・利用・流用・盗用することは禁止します。剽窃厳禁。悪質なキュレーション Curation 型剽窃、つまみ食い剽窃もお断り。複製のみならず、ベース下敷きにし、語尾や文体などを変えた剽窃、リライト、切り刻んで翻案等も著作権侵害です。