コンタクトレンズ保存液「これ一本」と角膜感染症
コンタクトレンズ、特にソフトコンタクトレンズによる角膜感染症が増えている。ソフトコンタクトレンズの使用者の10人に1人がコンタトが原因の眼病にかかるという統計もある。しかも、ここ10年でその数は飛躍的に増えているという。大きな原因は2週間使い捨てタイプのソフトコンタクトと「マルチパーパスソリューション」といわれる保存液の爆発的普及だ。マルチパーパスソリューションとは「多機能液」の意味で、「コンタクトのすすぎ、洗浄、消毒、保存がこれ一本でできる!」いう商品がこれにあたる。マルチパーパスソリューション(MPS)が普及する前は、通常のソフトレンズも、2週間タイプのソフトレンズも煮沸して消毒するのが普通だった。しかし、これは手間がかかる、専用の電熱器でやけどをするなど評判が悪かった。そこで、MPSが登場し、いまやソフトレンズの消毒の主流となっている。1.MPSに浸けただけでは消毒できない!?MPSのセールスポイントは「◯時間浸けて、そのまま装着できる」という手軽さだ。しかし、そのまま装着するためには、消毒成分の濃度をかなり薄めなければならない。そのため、消毒力は非常に弱いものになっている。某医科大学の実験によると、あるメーカーの販売する「これ一本で…消毒も」の商品では、逆に菌が増殖したというほどだ。他のメーカーの商品も細菌をわずかに減らすか増やさないのがせいぜいといったところであった。実際、これら保存液で殺菌消毒のデータが示されているものはまずない。それほどMPSの消毒力は弱いものなのだということをまず知っておく必要がある。2.コンタクトをつけたままプールや風呂に入ってはいけない!さらにMPSの決定的な弱点は「アメーバには効かない」ということだ。アメーバ・・・理科の実験で顕微鏡で見るあの生物だ。特に「アカントアメーバ」という種類はコンタクトの上で増殖し、角膜を食い破るおそろしいアメーバだ。コンタクト着用者が、角膜潰瘍という病気で失明したり視力を落とす原因になるアメーバである。実はこのアメーバ、身の回りのいたるところにいる。洗面台、浴槽、流し・・・水道管や貯水タンク、ステンレスのヌメリには必ずいる。ちょっとでも「ヌルッ」とするところがあれば、アカントアメーバがいると思ってよい。特に注意が必要なのは、プールや銭湯、温泉によく入る人。これらの施設の湯水からは、ほぼすべてからアカントアメーバが検出される。施設が大きく清掃がゆきとどかないこと、循環ろ過機を使うため、ろ過機の中にアメーバの巣(ヌメリ)ができやすいことが原因だ。昔は保健所がたくさんあり、医療系の役人(医師、薬剤師、獣医師)も多かったため、これら銭湯やプールはよく監視され、衛生状態も今ほど悪くなかった。しかし、地方財政の悪化で、保健所は減り専門の医療系の役人も激減してしまった。自治体がカネと引きかえに市民の健康を犠牲にした形だ。(この問題については別の機会に詳述する)その一方で、スポーツジムやスーパー銭湯は大型化し増えるばかりである。新しく見た目もよいプールやスーパー銭湯だが、役所の監視の目が行き届かず衛生状態は悪くなっている。さて、このアメーバも、100℃まで煮沸されればさすがに死滅していた。しかし、MPSはこのアメーバを殺すほどの消毒力はないの。コンタクトをつけたままプールや銭湯に入った人は、必ずコンタクトを洗浄する必要がある。3.MPSの代わりに水道水・・・細菌が爆発的に増加!さらに悪いことに、「たまたまコンタクト保存液を切らしてしまった」として水道水や生理食塩水で洗浄したり保存する人がいるということだ。これはハードレンズならばともかく、ソフトレンズでは逆効果だ。ハードレンズはいわば薄いガラス。水洗いでもある程度汚れは落とせるし、水に浸けても変形したりしない。これに対し、ソフトレンズは透明なスポンジと思ってもらえばよい。水洗い程度では汚れも細菌も落ちないし、スポンジの目に隠れた細菌はたっぷり残った汚れを食べて翌朝には数万倍にも増えている。また、浸透圧の関係で、水道水にソフトレンズを長時間浸けると変形してしまい、角膜にストレスをあたえる。さらに、水道水の中にもアカントアメーバはある程度存在する。汚れたままのソフトレンズの上でアカントアメーバが増えるとその巣は白い点になる。この白点、たまに目に見えるほど大きくなるが、通常は気づかない。これをそのまま目に付けると、失明や視力低下の原因となる。このように、「これ一本」のMPS(マルチパーパスソリューション)には落とし穴があることを、メーカーは積極的にアピールしない。すべてのメーカの商品が同じ欠点をもっているのに、自社製品だけを悪いように言いたくないという思惑があるのだろう。しかし、逆に「一般にMPSにはこういう欠点があります。当社製品についても使用上の注意をよく守り・・・」と正直にアピールするメーカーを消費者は信頼するのではないだろうか?