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カテゴリ:環境
もう明日から8月だというのに梅雨明けは遠く、からっと晴れる日がまったくない。近畿地方の日照時間は平年の半分以下だ。中国地方西部から九州北部にかけては記録破りの集中豪雨に襲われ、土石流や河川の増水などで20人を超える死者が出た。この荒々しい気象が招いた北海道大雪山系での大量遭難については既に書いた。 不順な天候は農産物の成長にも影響を与えており、生鮮品の中には品薄から価格が急上昇するものも出はじめている。このまま日照が不足する状況が続けば、秋の収穫へのダメージは避けられない。東北以北の稲作では冷害の可能性もある。思えば昨年は全く降らず、ジリジリと照りつける太陽を見上げては、毎日続く過酷な日差しに気を揉んだものだった。 農民は、いったいどれほど長い年月、気まぐれな天を見上げてはため息をついてきたことだろう。「…日照りの時は涙を流し、寒さの夏はおろおろ歩き、みんなにでくのぼーと呼ばれ、褒められもせず、苦にもされず、そういうものに、わたしは、なりたい」。大いなる自然の振る舞いの前にあまりに無力な人間の諦観と、であればこそしたたかで粘り強い生命のしなやかさを、宮沢賢治は東北の農民の言葉で淡々と語った。それはこの国の農の心に通底する思いであったはずだ。 この天候不順の原因の多くはエルニーニョ現象に求められている。周知の通り、東太平洋のペルー沖、ちょうどガラパゴス諸島あたりの海水温が平年に比べ高くなる現象で、世界の気象に地球規模の大きな影響を与えることが知られている。日本ではこれまで、低温と日照不足、それから多雨がもたらされたケースが多いという。つまりはこの夏の気象状況だ。 地球シミュレータなどスーパーコンピュータによる地球温暖化の未来予測のパラメータには、もちろんエルニーニョも組み込まれている。そうした計算によれば、地球は一路単純に温暖化に向かうのではなく、今夏のような逆行も含みつつエルニーニョの如き自然現象の威力を増大させ、全体として気象現象を極端化させながら進行、つまりは豪雨と干ばつ、農業で発現すれば高温障害と冷害が隣り合わせに頻発するという。 「アメニモマケズ」の賢治の一種悟りにも近い諦観は、人知では制御不能な大自然の営みに向けられていた。だが、地球温暖化の原因は人為以外のなにものでもない。いま、賢治が存命ならどのように行動しただろう。少なくとも「おろおろ歩き」といった、なすすべのない狼狽の嘆きに終わることはなかったはずだ。 などといったことを考えつつ、今夜から再び北アルプス後立山連峰に行く。天気予報は最悪だが、まあ「おろおろ」はせず、せめて胸を張って歩いてこようと思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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