1178971 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

炬燵蜜柑倶楽部。

炬燵蜜柑倶楽部。

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

カレンダー

カテゴリ

サイド自由欄


2005.07.16
XML
カテゴリ:NK関係
 最初は俺の方が追っていた筈なのに、気がつくと、相手が俺を追っている。そして俺はその相手に安心しているうちに、逃げられてしまうのだ。
 奇妙なくらいに彼らは同じ行動を取った。そして妹はそのたびに甲斐性なしと俺を責める。
 まあ当然だ。そして俺はまた懲りずに、「声」を捜してしまう。無意識のうちに。前の相手への未練も忘れて。ひどい奴だ。
 張り巡らせたアンテナに引っかかる声を捜してしまうのだ。

   *
 
「七時だよーっ!RINGERだーっ」
 開演時間が小津の声で告げられた。
 馬鹿でかい奴の声はマイクを通すと、空気がびりびり震えた。小津はこういう時のトークが上手い。バンドの中でも「面白い」部分をいつの間にか担当しているようなふしがある。
 まあドラマーにしては奴はあまりがっちりとした体型ではなく、しかもジャニーズ顔だ。おまけに、ただのギター馬鹿の俺なんかより、ずっと「普通」のファッションセンスを持っている。それに明るい性格と相まって、「恰好いい」とはそう言われないにも関わらず、彼は人気があった。
「ごめんねー、今日はKちゃん、急に熱出して倒れちゃって」
 えー、と女の子達の声が飛ぶ。
「そんな訳で、メンバーへの大質問大会としたいと思いまーす」
 黄色い声が響いた。どうやらそれはそれで楽しそうである。まあ仕方がないだろう。ここまで来てしまったら、楽しまないと損、なのだ。
 結局出演順番を逆にした。うちのバンドが先で、向こうのバンドが後になった。
 まともに演っていられたなら、俺達の方が後なのだ。キャリアとか、人気とか色々な面を加味すると。だがトークライヴとなってしまうと、そういう訳にはいかない。客に対してのお詫びという意味もある。
「はいそこの子!」
 小津は司会者か学校の先生か、という調子で、次々と会場のウチのファンを指していく。ファンの子達は、その場で声を張り上げて、くだらない質問を飛ばしてくる。
 さすがに不機嫌な顔はできない。根性で俺は百万ドルの笑顔を振りまいていた。

 そしてすぐに次のライヴが始まった。俺達は結局殆どステージの幕の前でそんな馬鹿話をしていたので、既に向こうのバンドの楽器はセッティングされていた。
 S・Sはよく言う「ヴィジュアル系」のバンド雑誌に取材されたこともあるだけあって、何はともあれ整った顔のメンバーが揃っていた。最もいわゆる「それ」のように化粧ばりばりという訳ではない。「すっぴんではない」薄化粧程度だ。
 上手から見る俺は、さすがに眼鏡をかけていた。
 誰のナンバーだか忘れたが、頭の配線が何処か切れたような女性ヴォーカルに、こんなにでかくていいのか!と言いたくなるようなリズム隊、それにノイズだらけのギターの音がかぶさるSEがかかった瞬間、暗転。フロアが湧いた。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2005.07.16 09:11:26
コメント(0) | コメントを書く



© Rakuten Group, Inc.