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カテゴリ:NK関係
さて、この新しいメンバーの二人は仮名井文夫と牧野京介という名だという。
新しいメンバーだ。つい先日までは、対バンしていた、別バンドのメンバーだった。「S・S」という名で、傾向としてはやや近いバンドを組んでいたのだ。 つい先日まで、という但し書きを見れば判るように、現在はそのバンドはない。 まあはっきり言えば、俺達が壊してしまったようなものだ。 「S・S」は、先月、俺達のバンド「RINGER」が、アクシデントのせいでライヴが出来なくなった時の対バンだった。 さすがにあの時はびっくりした。その当時のうちのヴォーカリストで、ケンショーの恋人でもあった奴が、メジャーの話が来たところで失踪したのだ。 仕方なし、そのライヴは、うちはトークライヴ、という形にし、演奏はなしということになってしまった。残念と言えば残念だった。 ところが、俺が思ったよりは落ち込まなかった我がバンドのリーダーは、えらいことを言い出した。 この対バンの音とカナイの声を聞いて、このリーダー様は、こともあろうに、向こうのヴォーカリストを入れたい、などと言い出してしまったのだ。 何を考えているんだ、と俺もさすがに思った。 これまでも声に惚れて見境がなくなったことは多々ある奴だが、逃げられたからと言ってすぐに次を見つけてしまうあたりが。 …てなこと言っているうちに、今度はうちのベーシストが抜けてしまった。これもまたヴォーカル同様、メジャーへ行くことに不安を持ったらしい。 残されてしまった俺達だが、こちらがそうこうしているうちに、向こうの方でも一波乱あったらしい。どうもそれはケンショーと、このヴォーカルのカナイの間に何かあったらしいが…妙なところで口の堅いこのリーダーは、その間にあったことは俺には言わなかった。あんまり聞いても馬に蹴られそうな気もするし。 十分くらいして、カナイもやってきた。結構時間に遅れることを気にしていたようだ。駅から全力疾走してきたようにはあはあと肩で息をついていた。 「遅れてすいませ~ん!」 おおっ、と俺は思わず後ずさりしていた。でかい声だ。強烈な声だ。割れ鐘を威勢良くぶっ叩いた時のような感触が、その中にはあった。 「遅い、カナイ」 くすくす、と笑いながらマキノは友人にそう言った。 「仕方ねーだろ?バイト今日、手がなくて」 「駅前のミスタードーナツだっけ」 「ええ、そうですよ」 お、こっちは俺に対してやや敬語だ。 「そーゆー時は、隙を見て逃走(ブッチ)してくるもんだ」 「俺あんたと違って真面目なんだよーだ。この時間、カウンター誰もいなくなっちまうって言うんだからさ、仕方ねーじゃん」 ぬかせ、とケンショーはくくく、と声を押さえて笑った。ありゃ。 「それにしてもマキノは練習熱心だな。確かお前、部屋防音だろ?」 「あ、そーですよ。ピアノあるから。でもやっぱりどーもウチでベース弾いても何か違うって感じが」 「ピアノあるの!」 俺は思わず訊ねていた。あるよぉ、と奴はうなづいた。ありゃ、またタメ口だ。 「弾けるんだ…」 「弾けるなんてものじゃないすよ」 カナイが口をはさむ。 「こいつ、俺と会った頃は、音大志望のばりばりのクラシック野郎だったんだから。一体どう道を誤ってしまったのやら」 「俺を口説き落としたのは一体誰でしたかねー」 「馬鹿やろ、駄目もとだったんだよ」 なるほど、と俺はこの二人の出会った状況を何となく推察していた。 それにしても、そのベースには、見覚えがあった。 高校生が持つにしては、ずいぶんとモノがいい。黒地に、貝加工の模様が綺麗な曲線を奔放に描いていた。何って言っただろうか?細工の名前までは忘れたけれど、結構いいものだということくらいは俺にだって判る。 それに何処かで見たことがある。そんな気がしていた。だけどそれが何処だったか、俺には思い出せなかった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005.08.05 20:37:04
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