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2005.08.05
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カテゴリ:NK関係
 さて、この新しいメンバーの二人は仮名井文夫と牧野京介という名だという。
 新しいメンバーだ。つい先日までは、対バンしていた、別バンドのメンバーだった。「S・S」という名で、傾向としてはやや近いバンドを組んでいたのだ。
 つい先日まで、という但し書きを見れば判るように、現在はそのバンドはない。
 まあはっきり言えば、俺達が壊してしまったようなものだ。
 「S・S」は、先月、俺達のバンド「RINGER」が、アクシデントのせいでライヴが出来なくなった時の対バンだった。
 さすがにあの時はびっくりした。その当時のうちのヴォーカリストで、ケンショーの恋人でもあった奴が、メジャーの話が来たところで失踪したのだ。
 仕方なし、そのライヴは、うちはトークライヴ、という形にし、演奏はなしということになってしまった。残念と言えば残念だった。
 ところが、俺が思ったよりは落ち込まなかった我がバンドのリーダーは、えらいことを言い出した。
 この対バンの音とカナイの声を聞いて、このリーダー様は、こともあろうに、向こうのヴォーカリストを入れたい、などと言い出してしまったのだ。
 何を考えているんだ、と俺もさすがに思った。
 これまでも声に惚れて見境がなくなったことは多々ある奴だが、逃げられたからと言ってすぐに次を見つけてしまうあたりが。
 …てなこと言っているうちに、今度はうちのベーシストが抜けてしまった。これもまたヴォーカル同様、メジャーへ行くことに不安を持ったらしい。
 残されてしまった俺達だが、こちらがそうこうしているうちに、向こうの方でも一波乱あったらしい。どうもそれはケンショーと、このヴォーカルのカナイの間に何かあったらしいが…妙なところで口の堅いこのリーダーは、その間にあったことは俺には言わなかった。あんまり聞いても馬に蹴られそうな気もするし。
 十分くらいして、カナイもやってきた。結構時間に遅れることを気にしていたようだ。駅から全力疾走してきたようにはあはあと肩で息をついていた。
「遅れてすいませ~ん!」
 おおっ、と俺は思わず後ずさりしていた。でかい声だ。強烈な声だ。割れ鐘を威勢良くぶっ叩いた時のような感触が、その中にはあった。
「遅い、カナイ」
 くすくす、と笑いながらマキノは友人にそう言った。
「仕方ねーだろ?バイト今日、手がなくて」
「駅前のミスタードーナツだっけ」
「ええ、そうですよ」
 お、こっちは俺に対してやや敬語だ。
「そーゆー時は、隙を見て逃走(ブッチ)してくるもんだ」
「俺あんたと違って真面目なんだよーだ。この時間、カウンター誰もいなくなっちまうって言うんだからさ、仕方ねーじゃん」
 ぬかせ、とケンショーはくくく、と声を押さえて笑った。ありゃ。
「それにしてもマキノは練習熱心だな。確かお前、部屋防音だろ?」
「あ、そーですよ。ピアノあるから。でもやっぱりどーもウチでベース弾いても何か違うって感じが」
「ピアノあるの!」
 俺は思わず訊ねていた。あるよぉ、と奴はうなづいた。ありゃ、またタメ口だ。
「弾けるんだ…」
「弾けるなんてものじゃないすよ」
 カナイが口をはさむ。
「こいつ、俺と会った頃は、音大志望のばりばりのクラシック野郎だったんだから。一体どう道を誤ってしまったのやら」
「俺を口説き落としたのは一体誰でしたかねー」
「馬鹿やろ、駄目もとだったんだよ」
 なるほど、と俺はこの二人の出会った状況を何となく推察していた。
 それにしても、そのベースには、見覚えがあった。
 高校生が持つにしては、ずいぶんとモノがいい。黒地に、貝加工の模様が綺麗な曲線を奔放に描いていた。何って言っただろうか?細工の名前までは忘れたけれど、結構いいものだということくらいは俺にだって判る。
 それに何処かで見たことがある。そんな気がしていた。だけどそれが何処だったか、俺には思い出せなかった。





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最終更新日  2005.08.05 20:37:04
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