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2005.08.12
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カテゴリ:NK関係
「カナイのメロディは面白いんだけどな。予想できないんだもん展開が。俺もっと聞きたいんだけど、この寡作野郎」
 マキノはふう、とため息をついた。
「仕方ねーじゃん。そうぽろぽろ湧き出る訳じゃあないんだからさ。お前こそ俺の手伝いはしてくれるけど、全然自分のアイデア持ってこねーじゃないの」
「俺はそういうのが浮かばない人、なの!仕方ないでしょ」
「まあまあまあ」
とリーダー殿は食いつきそうな勢いの高校生をなだめる。
 何となくこいつが人をなだめている図というのはおかしかった。だいたいこいつは人を振り回すことはあっても、人に振り回されることはないのだ。
 ところが、この高校生達が入ってからというもの、事態は逆転していた。しかもそれが結構楽しそうだというあたりが、判らないものだ。
 ケンショーの悪友は以前、奴には実は振り回すタイプが合ってるんじゃないか、と言っていたが、意外と的を射ていたらしい。
「ま、何にしても、いい曲書いて、いい音に…納得のいく音作って、売ってもらおうな」
とリーダー殿は締めた。
 本当に、俺にそれを作る能力があったらいいのに、と思う。だけど。

 駅前まで来ると、ケンショーはバイトがあるから、と地下鉄への階段を降りていった。カナイは本屋に寄ってから帰る、と駅前の繁華街へと紛れていった。そして俺とマキノが残された。その日俺はバイトは休みだったので、すぐにこれという用事はなかった。
 どうしようかな、とぼんやりと考えていると、残されたもう一人が俺以上にぼんやりとしてロータリーのコンクリートブロックの上に座り込んでいた。
「お前はどうすんの?マキノ」
 え、と彼は弾かれたように俺の方を向いた。ひどく驚いたようで、大きな目を更に丸くしていた。俺は何となく、胸が飛び上がる感じを覚えた。
「…え?今何か言った?」
「お前はどっかこれから行くとこあるの、って聞いたの」
「別に…取りあえず帰ってもいいし、どーしようかな、と」
 そしてふらり、と首を回す。伸びかけて、さらさらした髪が揺れた。その仕草にふと、先週のことが思い出される。
「そう言えばさ、お前、こないだの週末、**駅の前にいなかった?」
「…あれ、オズさん居たの?夜なのに」
 否定はしていない。
「うん、あの町に友達の部屋があるから…見間違いかと思ったけれど」
「居たことは居たよ。うん」
 ふうん、と俺はうなづいた。 
「でも友達かあ。いいな、そういう時間に居てくれる友達が居るっての」
「…あれ?お前あの時連れ居たんじゃないの?」
「連れは居たけど、うん…」
 言葉をにごす。さほど言いたい話題ではないらしい。
「…ああ、そういえば最近ACID-JAMにも行ってないから、行ってみよっかな」
 そして奴はオズさんもどう?と訊ねた。特に用事はない。いいよ、と俺は答えた。

   *

 「ACID-JAM」は、その日は結構な入りだった。
 ここは、以前よく出ていたライヴハウスだ。去年までは、そこが俺達の根城だった。
 ここしばらく、動員が伸びたので、スタンディング200から300人程度しか入らないライヴハウスでは危険になってしまい、もう少し人の入る現在の行きつけの所へと移ったのだ。
 出なくなったとは言え、別にそこのスタッフといさかいを起こした訳ではないので、現在でも俺は行けば顔パスだった。
 そして顔パスの奴はもう一人居たらしい。
「あらマキちゃん、久しぶり…あれ、オズ君も一緒?…あ、じゃあ、RINGERとくっついたって本当だったんだあ」 
「くっついたって…ナナさん」
 俺は少しばかり妙な方向へ頭が行っていたらしい。すると彼女は面白そうに、追い打ちをかける。
「だって本当でしょ?」
「うん、そうだよね」
 マキノまでがそう答える。はい、と彼女はマキノにタンクのものではないオレンジジュースを渡すと、俺に何呑むか、と訊いた。ウーロン茶、と俺は答えた。
「あら、呑まないのぉ?」
「そういう日だってあるの」
「生理?」
 マキノがするっとそんなことを言う。俺は思わずカウンターにつっぷせた。けらけら、とナナさんは笑う。
「ところでねマキちゃん、今日はここて何の日だったか知ってる?」
「ん?何だっけ」
「BELL-FIRSTがね、メジャー一周年前夜祭なの。良かったらマキちゃんも出たら?」
「俺があ?だめだめ」
「出るって?」
 思わず俺は、手を振る奴とナナさんに訊ねていた。
「やだ、知らないで二人で来たの?だから、お友達バンド集めてセッション大会なの。もちろんベルファのステージもあるけどね、それだけじゃなくて」
 と、半ば以上埋まっていたフロアから急に歓声が上がった。
 はれ?と俺は目をこらした。舞台の上手には、何やら白い紙が見えた。
 ボールドの色の幕に丸くピンスポットが当たっている。そしてそこには、羽織袴を着た人物が居た。
「…」
 思わず俺はマキノの回転椅子をぐるりと回してしまった。奴はバランスを崩しそうになり、途端に抗議の声が上がる。
「何すんの!」
「何じゃありゃ?」
「…あれ?」
 奴は目を大きく見開き、ステージ上の人物を見る。





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最終更新日  2005.08.12 22:03:06
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