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2005.08.17
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カテゴリ:NK関係
「駄目駄目駄目駄目やめやめ」
 ケンショーが手を挙げた。演奏が一気に止まる。あの目つきの悪い目がさらに凶悪になって、俺を睨んだ。
「オズお前、今日身体の具合でも悪いの?」
「?いや」
 何をいきなり訊くんだろう。
「…ああそう。じゃお前今日帰っていいよ」
「…何」
「練習で、お馴染みの一曲に五回もとちる馬鹿とは演奏できねーんだよ!」
 げ、と俺は思わず自分のスティックに目を落とした。どれだけ性格や行動に難があろうが、ケンショーはそういう点にだけは厳しい。俺は素直に頭を下げる。
「…悪い」
「…いいけどさ、お前変だよ、今日」
 ふう、と俺は返す言葉もなく、大きく息をついた。しゃあない、今日は散会だと言うリーダー殿の言葉が耳に残った。
 奴はさっさとギターをしまうと、そのままやや力まかせにドアを開けて出て行った。
「練習おしまい?」
 マキノは肩からベースを下ろしながら訊ねる。そういうことだね、と言うカナイの声が妙に響く。雨が近いのかもしれない。
「…まだ結構時間残ってるね」
 予約したスタジオのレンタル時間はまだあと一時間残っていた。もったいないと言えばもったいない。マキノとカナイが代わる代わるドラムの側に寄ってくる。
「オズさん身体の調子悪いの?」
「いや、別に」
「…だけどさあ俺でも判ったよ、オズさん。ケンショーさんやマキノだけじゃなく、俺でも判るようなミスは駄目だよ。な?」
 カナイの言葉にマキノもうなづく。全くだ。ふがいない。
「でも合わせるのパス、じゃ俺も帰るね。個人練習だったらウチでもできるもの」
「そーだよな、じゃ…」
 カナイは言いかけた言葉を止めた。
「ま、俺も少しここで遊んでからバイト行くよ」
「そぉ?じゃあまた」
 ひらひら、とマキノは手を振ってベースをかついだ。ドアを閉める。足音が遠のいていく。ドアに近付いて聞き耳を立てたカナイはうなづいた。
「さて」
 そして奴は腕組みをしてドラムセットの前に立った。
「何を俺に訊きたいの?オズさん」
「俺が何か訊きたいって判る?」
「スティックでケツつつかれちゃあね」
 カナイは肩をすくめた。そしてそばに立てかけてあったパイプ椅子を開いて後ろ向きに座った。
「オズさんが俺に訊きたいことって言うんなら、俺は二つしか浮かばないけど?」
「二つ?」
「ケンショーのことか、マキノのことか」
「…ケンショーのことなんか何かあるのか?」
「ああじゃあマキノのことなのね」
 奴は顔を緩める。俺はああ、とうなづいた。
「何かあったの?」
「何かあったと言うか…ACID-JAMのナナさんが、お前に訊いた方がいいというから」
「ACID-JAM!行ったの!?」
 カナイの両眉はつり上がった。
「たまたま、だけどな。でもお前がナナさんと顔見知りとは知らなかったけどな」
「顔見知りと言うかさ、まあ顔見知りだけどさ」
 どうも歯切れが悪い。
「…あんまり俺は話題にはしたくなかったけどね。でもそれだけであんたがそこまで調子落とすってのは変だよね。何かあったの?それ以上に」
 口のよく回る奴だ。
「ACID-JAMを出た後に、ちょっと思い返して、**駅の方面にまで行ったんだけど」
「うん」
「駅前で奴を見て」
「…ああ見たの」
「見たの、ってお前」
「知ってはいるけどね」
 さすがにカナイの表情も曇った。
 あの時俺は、一度ACID-JAMへ引き返し、ベルファのメンバーと軽く呑んだ。呑むのが目的ではない。情報収集がしたかったのだ。
 何故そうしようと思ったのか、自分でも判らなかった。ただ、途中で放り出された話は気になるというものではないか。
「じゃあオズさん、あいつが誰からベース習ったのか、聞いたんでしょ?」
「まあな。吉衛さんだろ?ベルファのベーシストだったトモさん。上手い人だったよな」
「うん。まあ結局、俺はその人とは、直接会うことはできなかったんだけどね」
「そうなのか?」 
「そうだよ。俺がマキノと友達つき合いするようになったのは、彼が亡くなった後だったから。まあ俺はあんまり考えないようにしてますがね、当時結構奴はひどかったなあ」
 カナイはやや苦笑する。
「師匠が亡くなったから」
「もちろんそれだけじゃないよ、あんたが想像している通り」
 俺はやや眉を寄せる。こいつは普段、結構単純明快そうな態度をとっているのだが、そういう所が時々実に性格が悪い。
「…正直言えば、あの頃奴とトモさんはそういう関係だったらしいですよ。最もそれは俺がそういうところを見た訳じゃあなくて、ナナさんに聞いただけだけど」
「ナナさんとはそれで知り合いなのか」
 まあね、とカナイはうなづく。
「俺はね、オズさん、時々嫌になるほど計算高い自分が居るの知ってて、それがあんまり好きじゃあないんだけど」
 そう前置きをする。
「マキノが俺のこと知る前から、俺は奴をずーっとバンドに誘おうと思っていたの。信じられる?ほぼ皆勤で来てるくせに、半年近く自分のクラスメートの顔把握してない奴って」
 うーん、と俺は頭をかかえる。





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最終更新日  2005.08.17 20:45:18
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