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カテゴリ:NK関係
でもさ、とマキノはつぶやく。
「ある日それが、突然終わりになってしまったから、俺の身体の方が、全然納得してないの」 「…」 「むこうが飽きたとか、俺が嫌いになったとか、何かそうゆう理由だったらさ、何か、納得できるじゃない…その時どれだけ哀しくても悔しくても、辛くても。だけど、何か、…拍子抜けしてしまった感じで」 「拍子抜け?」 思いがけない単語が出てきたので俺は問い返す。マキノは首を軽く傾げる。 「俺の言い方まずいかな?だけど、そういう感じ。…何って言うんだろ?何か、ものすごく一生懸命、細かくがんばってできあがったばかりの積み木で作った要塞が、ほんの軽い地震で崩されてしまった時のような感じ?何って言うんだろ…俺説明悪いな」 「…いや、お前はよく説明しているよ」 俺は首を横に振る。俺にはそんな言葉は出てこない。さっきから、何を言っていいのか、ずっと考えているのに、言いたいことがあるような気がするのに、上手い言葉一つ切り出せないでいるのだ。 だから、結局こんな言葉しか出なかった。 「だからお前、誰かと週末だけは、寝たいんだ?」 「ストレートだね、オズさん」 俺は眉を寄せ、ぐっとあごを引く。かっと頬が熱くなるのを覚える。どうせ単純だよ俺は。 だが他に事実を指摘する言葉が見つからなかったのだ。マキノはくす、と笑うと、すっと腕を伸ばした。その指が、軽く俺のやや赤くなっているだろう頬に触れた。だが俺は反射的にそれから逃げた。マキノは奇妙に表情の失せた目で、その指先を眺めた。 「…別に、誰かれ構わずって訳じゃあないよ」 「俺にはそう見えた」 奴はゆっくりと手を下ろしながら、首を横に振る。 「でも人は、選んでる。嫌な奴とは視線は合わせない。捕まるような真似はしない。吐き気のするような奴となんてできないよ、いくら俺だって」 「…」 「そういうつもりはない、って言ったよねオズさん」 「…ああ」 「でも、連れてきた。どうして?」 「…バンドのメンバーがそんなことしてちゃ、放っておけないのは当然だろ」 「優しいねえ」 カナイと同じ言葉だ、と俺は不意に思い出していた。だがその口調は、カナイよりはるかに辛辣だった。奴は軽く身体を俺の方へ乗り出した。 「でもそうゆうのって、何か残酷だと思わない?」 「そうなのか?」 「あんたは判っていないよ。今日は週末で、明日は何も無くて、あんたは少なくとも俺を嫌っていない」 そうだろ、とマキノは続けた。 「…ああ」 確かに嫌ってはいない。だがそれとこれとは違うのだ。そもそも、俺は野郎にそういう感情は持ったことが無い。無いはずだ。ケンショーとは違うのだ。ケンショーは、そもそも恋愛に性別があること自体忘れているのではないか、と思われた。 だが俺は。 いつのまにか、奴の手が再び俺の頬に触れていた。 俺はその手を掴んで、外させた。何で、というように大きな目が俺を見据えている。黒目がちの瞳が、奇妙にぎらぎらとしている。 だが俺は、基本的に、そういうものとは無縁だ。無縁のはずなのだ。 郷里でも今でも、そんな、寝たいとか思うような相手は、あくまで女だったのだ。胸があって、身体のところどころの線があくまで丸みを帯びた、女。 俺とは別の性を持った生き物、のはずなのだ。そして俺は、そんな相手を、自分からその手の中に入れて、抱きすくめるのが好きなのだ。そのはずだ。 だから、今目の前で起こっているような、こういう事態がおきた時、どうしていいのか、俺にはさっぱり判らなかった。 おいマキノ、と口は動こうとした。だが、それは言葉にはならなかった。 相手の目が、ひどく近くに見えた。猫の目だ。夜の夜中に、不意にライトを当てられた時の。どうしてこんなに近くに見えているのか、俺はなかなか理解できなかった。 いつの間にか、腕が、首に巻き付いていた。交差した腕の先は、体温を上げたまま、俺の耳元を動いていた。 そして瞳を大きく開いたまま、奴の顔が至近距離にあった。…いや至近距離、じゃない。それ以上だった。いつの間に。俺にはさっぱり判らなかった。 明らかに皮膚の上が感じるものと、頭が理解できるものとは別なのだ、とその時俺は初めて気付いた。事態の訳のわからなさが、俺の表面上の感覚を妙に尖らせていた。 固い指先が、それでも細かく耳の後ろを叩いた。ちょっと待て、と俺は喉の奥で言おうとする。だが無論その声は、相手に吸い込まれていたのだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005.08.22 06:49:57
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