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カテゴリ:NK関係
もっとも、その参加は強制ではない。
ただ、「結果的に」全員参加してしまいたくなってしまう雰囲気が、この長い歴史を持つ私立の学校にはあるらしい。小・中・高一貫だから、OBなり何なり、客の数も多い。有名だからか、外部からの客もまた然り。 そしてどうやら、今年の生徒会長は、この文化祭に異様に力を注ぎ込んでいるらしい。 まあ噂だ。ぴいちくぱあちくクラスの女子がさえずる類の。 全員参加ねえ。俺は内心つぶやく。 さてどうしたものやら。 やがて、校内にはポスターが公式非公式問わず貼られ、休み時間であるなしを問わず、皆、自分の所属する文化祭団体のチケットを売りさばくことに熱心になった。 俺は、と言えば、何処に属するでもなく、ふらふらしていた、というのが正しい。別にクラス名簿に○を打って参加不参加の確認を取る訳ではないのだ。誰かに誘われた時に拒む気もないが、自分からそれをやろう、と言う気も起きない。成りゆきまかせだ。 今のところ俺の財布の中には、「喫茶店」と「お化け屋敷」と「アンティークライヴハウス」のチケットが一枚づつ入っていた。 講堂で行われる催し物は、基本的には生徒会主催である。祭自体は金・土・日と三日間なのだが、そのうちの一般開放の土・日に、大がかりな発表会が行われる。 どうやら「土曜の午前は真面目な音楽」とか「日曜の午後は演劇」というように分かれているらしい。そう出場者募集を兼ねたポスターには書かれている。 「何見てんのマキノ?」 カナイが背後から来襲してきた。ぐわし、と俺の肩を掴み、その向こう側のポスターを見た。 「あ、俺もこれに出るのよ」 「君が?」 思わず俺は振り返っていた。 「そんな意外そうな顔せんでもいいでしょ?バンド組むの、バンド」 「バンド!君、バンドやるの?」 「そ」 「だけど君、何か楽器できたっけ」 そういう話は今までクラスでも聞いたことがない。確かによく奴が、他の男子生徒とわいわいとロックの新譜がどーの、と話しているのは聞いたことがあるが、楽器の話は。 「あ、俺はいーの。俺は歌うたうの」 「あ、なるほど」 あからさまに納得するなよ、と奴は笑った。 「でも君声がいいから、いいかもな」 「お世辞?でもサンキュ。じゃ見てくれよな。そう言うんなら」 別にお世辞ではなかった。 そうこうするうちに、俺は時々カナイとは話をするようになっていた。 奴は基本的に誰にでも気さくであったし、整った顔の割には、妙に人好きさせる笑いを浮かばせることもできる。クラスの内外、奴を好きな子は多いらしい。 だが奴自身はそれを知ってか知らずか、飄々とした態度で、誰とも付き合ってはいないらしい。 一度、意外に思って訊ねたことがある。すると奴はこう答えた。 「だって今はまだ面倒じゃん」 そして逆に俺が聞かれた。 「お前こそ、そういうのってないの?」 「俺?どうかな」 あ、ごまかすなんてずるい、と奴は俺を後ろから羽交い締めにした。ごまかしたつもりはないのだが。確かにそういう相手は現在はいないのだから。いないような気がする。 「そう言えばさ、マキノ、一度お前に聞いてみたかったんだけどさ」 「何?」 廊下の、背の低い二段組のロッカーから教科書や辞書を取り出しながら奴は訊ねた。 「お前、『ACID-JAM』に行ったことある?」 「あしっどじゃむ?」 「…いや、知らないならいいけど」 「…行ったことあるよ。中町のライヴハウスだろ?」 俺は古語辞典と世界史年表をロッカーの上に置きながら答える。 「あ、やっぱり」 「何で?」 「何か俺さ、何かお前どっかで見たような気がしてたんだけど…やっぱりあれ、お前だったんだ」 「…へえ…いつの話?」 奴は奴で、日本史地図と用語集を出し、ロッカーをばたんと勢いよく閉める。 「今年の春の終わりから夏。特に夏休みだったかなあ。俺よく観に行ったからさあ」 「夏はね。今はそうでもない。夏休みは結構通ってたよ」 「へえ。俺はさ、正直言えば、…マキノ、『RINGER』ってバンド知ってる?」 「名前くらいは。だけどまだあそこって、あんまり知られてないよね。君よく知ってるね」 「だって俺はファンだもん」 ほー、と俺は声を立てた。確かに意外だったのだ。結成してからは結構経っているらしいけど、目立ってライヴに精出すようになったのは最近だというところ。そういう実にマイナーなバンドに奴が目をつけるとは。 「バンドの?それともプレイヤーの?」 「ギタリスト。あそこのギタリストの音聞いた時に、もう、わーっ!って感じだった」 「へえ…」 わーっ、と言いながら彼は手を広げてみせた。その拍子に手にしていた用語集が通りすがりの女子に当たる。 慌ててごめん、と奴は平謝った。そして照れ隠しに笑いながら、俺に話の続きをする。 「マキノは何か、あそこでそういうお目当てでもあったの?」 「俺?ああ、一応は」 「誰?何処?」 「君、いつのライヴで俺を見かけた訳?」 「あ…」 そうか、と彼は記憶をたどり始める。俺は奴に言われる前に、その目的を口に出した。 「『BELL-FIRST』観に行ったんだ」 「…ああそうそうそこそこ。あそこの演奏って渋いし上手かったよなあ」 「うん」 本当にそうだったと思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005.09.04 09:22:19
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