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2006.01.06
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カテゴリ:NK関係
 ちなみに私は、と言えば。勝率は50パーセントだ。…過去に二人好きになって、一人と付き合ったことがあるのを言うのなら。
 ただし今は誰も居ない。故郷を出てくる時に、ケンカ別れして、それっきりだ。忙しい日々の中、思い出すこともなかったのだから、本当に好きだったのかも疑わしい。
 正直、何をもって「付き合う」というのか、私にはよく判らないところがある。
 短大の時のクラスメートの中には、その定義を「時間とSEXを共有する」とした子も居たが(もっともその子はそんな言葉で表現はしなかったが)、私は首をひねった。何故首をひねったのかは未だに判らない。
 ただこれだけは言える。恋愛は苦手だ。クラスメートがよく口にする、別れたのくっついたの、浮気したのコンパで見つけようだの、はっきり言って、面倒くさい。けど口にしたことはない。
 そう言ってしまえば、それこそクラスメートの間では、自転車にわざわざ乗ってきた子同様、同情と優越感と、そして一抹の不安を感じさせる視線で見られる。そんなことを私はつい読んでしまうからだ。
 そう、優越感というのは確実にある。自転車の子に対しても、だいたい皆まずこう言うのだ、雨風の日には。
「こんな日には大変よね」
 すると自転車の子は首を傾げた。何故そう言われているのか判らないのだ。すると問う方も期待はずれで困った顔をする。問いかけた方は、心配を全くしていない訳ではないだろうが、そうだね大変だよ、という答えを期待しているのだ。
 そう言われて安心するのだ。自分達の行動は正しいんだ、と。だが、彼女達の期待通りの答えはまず返って来ない。
 自転車に乗って来る子にとって、雨も風も、下手すると台風も雪も、それは予想されていることだし、そんなこと承知で走っているのだ。確かに大変かもしれないが、言われる程のことではないのだ。本人に聞いたのだから間違いない。彼女はその時にはその時仕様の恰好と時間を用意していたし、台風になど巡り会った日には、追い風で馬鹿みたいに進む、とはしゃいでいたものだ。
 ただ私は彼女と違って、そんな視線の意味をつい読んでしまうので、自分がその立場になることはできない。だから一応口は合わせてきた。それでも一応「付き合って」きた男は居たのだから。その誰かの定義の様に。
 出会ったのは高校時代だった。ただ学校は違った。受験勉強のために、三年の夏、図書館の閲覧室をよく利用していたのだが、その時の場所取りの列で退屈だったので話をしたのがきっかけだった。
 私と彼は話も合った。合ったからこそ、「付き合って」いたのだ。読む本とか、聞く音楽とか、映画とか、そんな話をとりとめなくしていた様な気がする。正直、私はそれだけで良かった。楽しかったのだ。
 短大のクラスメートに対して、何処か壁を作っていたように、私は高校のクラスメートとも、何処か一線を置いていた。「友人」はだいたい他のクラスに居た。その方が気楽だった。クラスが違う子達は、だいたい話が合うから続くのである。
 彼にはそんな友人達と同じような気楽さがあった。だから私の意識の中では、彼は長いこと、「男友達」だった。その位置を壊したのは彼だった。
 その位置が壊れてからも、私達の付き合いは続いていた。ただ、私の中では彼の存在は分裂していた。どうして昼間の楽しい「友達」が、夜、面倒くさい「恋人」というものにならなくてはならないのか、いまいち理解できなかった。いや、理解したくなかった。
 「友達」を無くすのが嫌だったから、「恋人」ともずるずると付き合っていた。だけどそれはいつか終わるだろう、と予感のある付き合いだった。
 そしてその読みは当たっていた。いや、読みというよりは、私自身が終わらせた、と言った方が正しいのだろう。
 私は地元の大学に進んだ彼が、そのまま地元の企業に就職したいタイプであることを知っていた。わざわざ口にしたことは無かったが、彼がそういうタイプであることは知っていた。兄貴とは逆だった。
 大学でも単位を一つも落としてなかった。追試も受けなかった。もしその授業を一度も受けたことが無かったなら、ノートを借りまくり、コピーを取りまくり、絶対落とさないタイプだった。
 兄貴だったら、本当に好きな科目だったら、自分の力だけでやって、たぶん落ちる。…いや、別に兄貴がどうということではないのだが、彼はそういうタイプだった、ということだ。
 それはそれで、要領がいいということなのだろう。実際にはちゃんと授業には出ていた。ただ、そういうこともできただろう、と私は思うのだ。
 何だろう。だから、実際には「どの部分」が嫌だ、ということではないのだ。ただぼんやりと、「何か違う」ということが、自分の胸の中にたまってきた。ただ私も私だったので、それを口にはしていなかった。言っても判らないだろう、と何となく感じていた。何だろう。言葉が通じない、という気持ちが私の中には確実にあったのだ。それはあきらめに近い。
 それが一番決定的だったのが、別れた時だった。
 短大の二年の夏、就職先が決まった、ということを彼に言ったら、彼は露骨に嫌な顔をした。何でそんな顔をするの、と私は訊ねた。リクルートスーツの私は、カフェで向かい側に座る彼に、首を傾げた。私にとってはめでたいことだった。めでたいに決まっている。いくら外面のいい私としても、それなりに努力というものをしたのだ。資料を集め、きちんとした恰好で、勉強も重ね、何社も何社も訪ねた。確たる目的もない「就職」というか「就社」は、不況のこの時代、短大卒はハンデだ。そう、私は就職に何の目的も持っていなかった。職が無いと食っていけない。だから職につく。それだけだった。この歳になって親に食わせてもらおうとは思っていなかった。それに、食わせてもらいたくもなかった。家を出たかった。だったら、いっそのこと。
 だからそれでも彼におめでとうの一つも言ってもらいたかったのかもしれない。少しは期待していたのだろう。
 だが彼の表情は期待通りにはならなかった。
 問いただすと、彼の表情の理由は二つあった。一つは、彼に就職活動のことを言わなかったこと。もう一つは、その場所が東京だったこと。
 東京だったら、反対していた、と彼は言った。私は何故、と訊ねた。お前俺ともう会わない気か、と彼は言った。私は答えに詰まった。どうしてそういう問いが来るのか、さっぱり判らなかったのだ。どう答えていいのか判らなかったので、黙っていた。彼が次に言う言葉で、対応を決めようと思った。そうしたら彼はこう言った。
「もういいよ」
 私はもっと困ってしまった。何を彼が言いたいのか、ますます判らなくなってしまったのだ。
 だから仕方なく、それがどういう意味なのか、彼に訊ねた。別に会わない気はない。だけど会える時間が少なくなるのは確かだろう、と付け加えて。事実だった。
 彼は悲しそうに首を横に振った。そして言った。
「無理して俺に付き合わなくてもいいよ」
 無理は。していた。それは知っていた。自分のことだ。だけど彼が私のことを好きなのも知っていたから、その手を振り解くことをしなかった。振り解く理由もなかった。
 私はそうなの、と答えて、席を立った。そうする以外、私には浮かばなかった。
 それで終わりだった。あっけない程、簡単に。
 後になって、電話が来た彼の友達から話を聞いた。彼はどうやらずっと私に地元に残って欲しかったらしい。





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最終更新日  2006.01.06 07:34:15
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