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2019.02.20
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​​​私が今日月亭先生へのささやかな贈物として店の商品の苺を三箱持参したのは、さっき玄関の上り口にそのまままだ置いてあるはずだ。座敷の方にすでに句会が始まる気配に私は気がせいていた。いずれ帰りぎわに先生にそっと目立ぬように差し出すつもりだった……が、いまお盆の上の大鉢に盛りこぼれるような苺を眺めると私は大きなショックを受けた。これだけ豪勢な苺が用意されてあったからには、もう私のあの小箱にひとならびずつの僅少な苺なぞとても、とてもはずかしくていまさら先生の前へなぞ差し出されるしろものではなかった。

 「春の雪」。
 吉屋信子の、今のところ確認されている「最後の」短篇。 『オール讀物』昭和39年3月号掲載。単行本未収録作品です。

 「私」は俳句が趣味の八百屋の奥さん。
 この苺を持ってきた人が、「緋紗女」夫人。苺は「うちの農園の」ということ。この緋紗女さんの車が、「私」の道中、撥ねを飛ばしてるんです。
 「私」は結局自分の苺は持ち帰ってしまうんだな。

 ついに歳時記といっしょに風呂敷に押しかくすようにひっくるんでせかせかと飛び出すようにした。

 で、帰り、緋紗女さんの車に送られてく人を「私」は「卑屈なひとの根性、わたし大嫌いだ」とバスに乗ってきます。ところが先に出たはずのバスが、停留所で止まったりするうちに抜かされて。
 それが五月晴れの頃。だけどそれ以来「私」は句会に行かなくなってしまって。三月に再び出た時に、春の雪でまた撥ねが……と思っている矢先に緋紗女さんの車に誘われるんですな。
 で、根はいいひとだったのかな、と思いつつ、

「どうぞおかまいなく――もうじきですから」
 私はそっけなく言ってしまった。夫人の顔が気のせいかしょげた表情だった。「いいきび」と意地悪な私だった。

 ところがその後。なかなか緋紗女さん来ない。

「さっきか来る途中の道でお会いしたんですよ。車止めて私をひろってやるっておっしゃるのに遠慮しましたけれど、まだお見えにならないなんて――そんなはず……」
 襖が激しく開いてせかせかと先生が戻って来られるなり突立ったまま、せき込んだ声で、
「みなさん! 緋紗女さんが亡くなったといまお宅から電話で……句会に出ると玄関へ降りた時倒れてそのまま……狭心症の発作だそうです」
「あら!」「えっ」「まあ!」みんな一言ずつ叫んだままあとの言葉も出なかった。
「だって――先生、ふく女さんはさっき途中で緋紗女さんが車で……」
 徳女さんが声をふるわした時、私はめまいがしてうつ伏せになって気が遠くなった。その私の耳には、玄関のあたりから緋紗女さんの声が聞えた。「遅くなりまして……」
 あのひとを怨んだり憎んだり気にした私をあの車で冥土か冥府へいっしょに連れて行くつもりだったのかしら? 私は身体中の血が冷えた……春の雪はまだ戸外に降りつついている……。

といきなり怪談展開ですよ!
 実は今回読み返すまで、後悔した話だと勘違いしてましたわー。
 この「めまいがして……」で「私」=ふく女も死んだのかもしれない、という感じまで持ってこさせてぞっとするざんす。
 
 怪談としてはシンブルだけどいいと思うんですが、「未収録」もの。
 吉屋信子には結構この「未収録短篇」がありまして、ちょいと勿体ない。
 事件性ありそうな話が結構カットされていますんでね。詐欺関係とか、赤ん坊譲渡とか、殺しとか。
 またそういうのも取り上げてみたいです。はい。

 ただそういう短篇はヲチ的にちっと食い足りないwww​​​





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最終更新日  2019.02.20 19:17:09
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