カテゴリ:アート
シャガール、ユトリロ、ローランサン、フジタなどエコール・
ド・パリの画家の展覧会は、見ているのだが、そういえば、キ スリング展は見たことがなかった。聞けば15年ぶりの回顧展 ということで、前回の展覧会の記憶がない私には、はじめてま とまったキスリングの作品を見る機会であった。 キスリングの女性像や花束など、あちこちの展覧会や美術館で よく見かけて、その都度、うっとりとしている。あの絵の具が 磁器のように封じ込まれた濃密な作品に引き込まれるのである。 だから、キスリングの作品はそんな肖像画や花の絵ばかりと思 っていたのだが、この展覧会では、静物画から風景画まで幅広 い題材と、そして画風の移り変わりの様子がはっきりとわかり、 自分にとってのキスリングのイメージを変えるきっかけとなる ものであった。 まず全体的な印象は、セザンヌ風の静物画から、キュビズム、 フォービズムなどの影響を経て、独自の画風にたどりつくキス リングは、どの時代にも「赤」を中心にした作品が多いのだな ぁと感じた。そして、その「赤」が時には艶かしく、時には叙 情的であったりするのである。 「サン=トロペでの昼寝」の妻ルネの赤いドレスは何ともいえ ない。明るい陽がさすテラスでリラックスする夫婦。その幸せ な一瞬が見ていて心地よい。 この展覧会のポスターにもなっている「赤いセーターと青いス カーフをまとったモンパルナスのキキ」のセーターもステキな 赤だ。女優キキの熱情を表現しているのだが、同時に青いスカ ーフがそれをクールダウンさせて、逆に清楚な感じを抱かせる。 「冷静と情熱のあいだ」の絶妙なバランスだ。 キスリングが、伝統的なオランダ絵画を研究し、それを原点に 描いているということも大きな発見であった。静物画や人物画 にその影響が大きく現れている。例えば、「魚(ブイヤベース)」 の深海魚とも思える多くの魚がカゴに入っている絵は、タッチ はキスリングのハデハデさが感じられるが、その構図はやはり、 最近Bunnkamuraでみた、プラハ国立美術館展でのオランダだ ったか、フランドル絵画だったかの魚の絵を思い出した。 伝統的な横たわるヌードの作品も多く、そのほとんどが情熱的 で官能的であるのだが、シーツや背景の布の表現が巧みで、こ れも、またうまくバランスの取れた絵に仕上がっている。 そのほか、「タス医師の子どもたち」の寄り添いあうふたりの兄 妹も、グッと印象に残る絵。少女のピンクのワンピースの模様 が美しい。「マリーローランサン」の縦長の四角い鼻の表現もお もしろい。 マルセイユやアムステルダムの建物をリアルに描いた風景画な ども、キスリングの幅広い画風を知る作品となった。 とにかく、キスリングという画家と改めて出会うことができた ステキな展覧会であった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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