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佐遊李葉  -さゆりば-

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2008年12月03日
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カテゴリ:光明遍照
 そんな堅香子が、駿河麻呂にはただひたすら苛立たしく憎らしく思えた。

 生きようとも、死のうともせず、ただ緩慢な死が訪れるのを黙って待っている。

 なぜ、己の力で何とか生きていこうとしない? せめてなぜ、わしに縋って、自分をこの娼館から助け出してくれと頼まない? いや、そうやってわしの前にただその惨めな姿を曝し続けるだけなら、いっそその梁にでも首を括って死んでしまった方が楽になるだろうが?
 
 駿河麻呂は堅香子にそう言ってやりたかった。

 だが、心の底ではそんな堅香子に共感していたのかも知れない。二人はどこか似ていた。だから、駿河麻呂は堅香子を憎みつつ、どうしても離れることが出来なかったのだ。

「何か、話をして」

 腕の中の堅香子が呟いた。いつの間に目を覚ましたのか、寄り添っていた身体をさらに摺り寄せ、甘えたように駿河麻呂の腕にしがみついて揺すっている。

 だが、目は閉じたままだ。いつものことだと思いながら、駿河麻呂は言った。

「わしは喋るのは好きじゃない。それに、近頃は面白いこともないから、何も話すことがない」

「面白い話じゃなくてもいい。何でもいいから……」

 堅香子の元に通い始めた頃、堅香子に急にそう言われて、駿河麻呂は戸惑ったものだ。なぜ話などさせたがるのだろう。駿河麻呂は口下手だ。人が聞きたがるような面白い話など出来るわけがない。

 それを不思議に思っていた駿河麻呂は、ある時堅香子に聞いてみた。堅香子は黙っていたが、しばらくするとぽつりと言った。

「声が……似ているから」


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最終更新日  2008年12月03日 15時46分40秒
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