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佐遊李葉  -さゆりば-

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2013年12月26日
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カテゴリ:遠き波音
 多聞丸の胸に迫るものがあった。

 幼かった自分の笑い声が、庭の隅々から聞こえてくる。柔和な老顔をほころばせる中務大輔。菓子を一杯に盛った高杯をにこやかに差し出す北の方。そして、几帳の影で優しく微笑む麗しい吉祥の面影。

 失われた全てのものに、多聞丸の胸は激しく動揺した。

 なぜ、自分はそれを失ってしまったのだろう。何よりも欲しかったもの、寂しい幼心の拠り所だったものを。一体どこから、あの幸せな運命が狂ってしまったのか。吉祥も……そして、自分も。

 兵衛佐に負けないように、吉祥の側にいて優しくしてやれば良かったのだろうか。吉祥が生活に困窮していることにもっと早く気づいて、父に無理矢理にでも援助させれば良かったのだろうか。せめて、吉祥の元を訪れて、自分の長年の気持ちを打ち明け、いつまでも自分の側にいてくれと言う勇気があったなら。

 いや、あの月夜の晩、あの一歩さえ踏み出せていたのなら、二人の運命は違ったものになっていたのかもしれない。

 だが、今はもう、何もかも失われてしまった。

 胸の一番奥底に潜んでいたあの重苦しい冥いものが、冷ややかに多聞丸を嘲笑している声が聞こえる。

 多聞丸は嗚咽(おえつ)をこらえながら、涙がこぼれ落ちないように、いつまでも暗い夜空を見上げていた。


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最終更新日  2013年12月26日 17時17分22秒
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