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佐遊李葉  -さゆりば-

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2014年02月18日
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カテゴリ:遠き波音
 恐る恐る顔を上げた老尼は、なおも皺に埋もれた目で訝(いぶか)しげに近江守を見つめていたが、やがてあっと小さな声を上げて呟いた。

「多聞丸様。お隣の小さな若君」

 老尼はそう言うと、急にすすり泣き始めた。近江守の狩衣の肩先を撫でさすり、薄い髭を生やした口元に触れながら、しわがれた声を詰まらせる。

「何とまあ、ご立派になられて。そのお髭のせいでしょうか、あの可愛らしい多聞丸様とはまるで気づきませんでしたよ。今度新しく来られた国守様とは、あなた様だったのですか。死ぬ前にお会いになれたら、吉祥様もどれほどお喜びになられたことか」

 老尼は嬉しいのか哀しいのか、よくわからない様子で泣きながら、近江守の顔を見つめている。

 近江守は苦痛に眉を顰(しか)めながら、しばらく返事ができずに俯いていた。だが、やがて老尼から目をそらすと、小さな声でぽつりと呟いた。

「実は……会ったのだ。ここへ着いた日に」

 老尼はそれを聞くと、長い間黙っていた。だが、急に両手の中に顔を伏せると、声を上げて激しく泣き出した。

「それで……きっと、吉祥様は安堵なされたのでございましょう」


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最終更新日  2014年02月18日 16時29分04秒
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