自力と他力の思想について
五木寛之氏のお話です。私はよく「他力」とはどういうものなのかを説明する時に、風にたとえます。海原に、エンジンの付いていないヨットが浮いているとします。動力源のないヨットは、風が吹かなければ動くことができません。私はこの風のことを「他力」、ヨットを自分自身だと考えています。風が吹いてくれれば走りだせますが、それまでは待つほかありません。ただ、風が来たらすぐ動けるように準備は必要です。まず、帆を張っていなければなりませんし、雲の様子を観察し、風が吹くと信じてそのチャンスを逃さぬよう待ち受けなければなりません。風の向きを予想して、帆を傾ける必要もあるかもしれない。帆の大きさを加減することも必要かもしれません。考えうる限り、できる限りのことをする。これらの努力が「自力」です。そして、自力を尽くしたら大自然の前ではもう何もできることがない。そうわかった時、その考えに気づいたということこそ「他力」の働きと言えるのではないかと思います。「人事を尽くして天命を待つ」という言葉がありますが、私はこれを勝手に読み換えて「人事を尽くさんとするは、これ天の命なり」としています。「人事を尽くそう」「精いっぱいやりきろう」そんなふうに思えたということ、それはなぜでしょうか。いつもなら、「面倒くさいから適当に済まそう」「無理だ、自分にはできない」、そんなふうに思うかもしれないのに、なぜか覚悟をきめられた、その点に注目したいのです。それこそ「天の命」ではないか。このように、自力と他力は相反するものではありません。他力とは自分を呼び覚まし、育むもの。また、自力をひっくるめてつつんでいくもの。私は他力とは「自力の母」だと思います。もう自力で思いつくことはやりつくした、またこれほど努力しているのになぜ報われないのか、そんな思いに囚われた時には、このことを思い出してください。そんな時こそ「他力」の風を感じられるチャンスです。(ただ生きていく、それだけですばらしい 五木寛之 PHP 研究所 87ページ)五木寛之氏の他力の考え方は、目標や目的を達成したいと思ったときに参考になります。まず自分なりにできる限りの準備をしていく必要があると言われています。障害となることを細大漏らさず紙に書きだして、対策をたてる。どうなるか不安な時は実験をして成功のための確証を掴む。次に自分を取り巻く状況の変化を読むことが大事なると言われています。変化を無視すると失敗する可能性が高くなります。これは川で泳ぐことをイメージすると分かりやすい。川下に向かって泳ぐときは川の流れを味方につけて楽に泳げます。反対に川の流れに逆行して泳ぐと最後には力尽きてしまいます。ここで大事なことは、フォローの風が吹いてくるまでじっと待つことが肝心です。チャンスがくるのを逃さないように観察を怠らないようにする。機が熟してきたと思った時は、思い切って行動を開始する。ヒマラヤの山並みを越えて南を目指す渡り鳥がいます。何回もチャレンジしますが、ことごとく失敗するそうです。ところがある日突然上昇気流が発生することがあります。渡り鳥はその上昇気流に飛び乗って、あの高い山並みを楽々と飛び越えてしまうそうです。上昇気流の助けがなければ乗り越えることはできません。希望を捨てないでチャンスをじっと待ち続けるという気持ちを持ち続けることが大事になります。