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カテゴリ:音楽
僕はヒットメーカー中島みゆきさんが歌う近頃の曲より、初期の小体(こてい)な曲の方が好きだ。
「ほうせんか」は78年シングル「おもいで河」のB面。 STVディレクター竹田氏への追悼曲だという。 ♪ほうせんか 私の心 ♪砕けて 砕けて 紅くなれ ♪ほうせんか 空まであがれ ♪あの人に しがみつけ 事情により今夜はタイトルとまったく関係なく、本館より蔵出し。 本館の日録を読んだ方が、「サト」の写真を見せてくださった。 僕は彼女の写真など一枚も持っていない。 はっきりとは見えない画像なのだが、それは紛れもなく、まさに僕が思い出して書いた時期の「サト」だった。 二十年以上隔たっているというのに、突然時間に復讐されたような気がした。 ひとつの家に同じレコードが2枚あるという状態。 確かに二人でそれを見たのだが、どんなアルバムだったのかまったく覚えていない。 画像は1978年の大学ですが、回想の内容は1982年のことです。 【2003年3月20日付日録より------------------------------- 「ETV特集 死霊」の最終回を観る。 埴谷雄高氏の撮影した井の頭公園の写真が映っている。 平日の静かな公園が好きだった。 中川五郎さんも近くに住んでたな。 高田渡さんはいまも「いせや」に通っているのかしら。 知久寿焼クンもよく出没してたぞ。 釈迦と大雄の論争は魅力的。 科学は量だが、文学には量なんて関係ない。 埴谷さんの言葉に力がこもっている。 ここ4回ほど私小説のように回想を語ってみましたが、今回で終了します。 あまり説明的ではブンガクにならないねえ。 ウェブの文体だと一つの文を短くしないと読みにくいのも、大きな制限だ。 しかし、なんといっても納得のいくように書けないのが大きな理由。 書かれていることはどれも事実なのだが、もっといろんなことがあり、いろんな気持ちがあったのを書けないのがもどかしい。 ここに書いたようなことを他人様に語るのは、初めてのことであります。 忘れていたことをいろいろ思い出したし、思い出したくないことを表に出して対象化することができました。 ご希望があれば再開するかもしれません。 もちろん登場した人物はどれも仮名でした。 (京くん・海ちゃん兄妹を除いて。) サトと夜道を歩きながら、話はあまりしなかった。 手も握らなかった。 一緒にゆっくりと歩くのが楽しかった。 一日の仕事が終わり、本郷から坂を下って後楽園の裏を通り、編集部に着く。 約束したわけではないけれど、そこにはやはり一日の授業を終えて早稲田から地下鉄に乗ってサトが来ている。 一緒に何か食べようよとあてのない時間をすごす。 何時間でも歩いていたかった。 サトもそう感じているのがわかった。 そうしようと思えば手をつないで歩くことぐらいはできたのだが、お互いにその先にあるものがやや面倒でもあった。 そうなれば別れがそれほど遠いことではなくなるような気がした。 千秋が僕たちを評して「ニューファミリーになれるよ」と言った。 嫌みで言ったのではなかった。 既に革命を目指す決意をしていた千秋の、市民生活への訣別の辞でもあったのだろう。 でも、それは違うんだと僕は思った。 サトと僕の未来がニューファミリーなんかであるはずはなかった。 雑誌の執筆者である田中夫妻がしばらく留守をするので、飼い猫の世話をかねてサトが留守番で泊まることになった。 人が集まることの多かった家で、僕も何度か行ったことがあった。 酒を飲んで意識を失ったのも、この家である。 「じゃあ、お酒でも買って泊まりに行くよ。」 言ってしまってから、僕はその言葉が意味することに気づいた。 サトは少し間をおいてから、「うん」と頷いた。 当日、僕は民芸品風の容器に入った焼酎を買っていった。 湯割りにして飲んだ。 何を食べたのだろうか、覚えていない。 田中家に同じレコードが2枚あるのをサトが見つけて、不思議がる。 一緒に暮らすというのはそういうことなんだ。 サトにはそれがわからない。 別々だった二つの暮らしが、一つの場所に収まる。 物はそんなふうに収まった場所が見える。 心の方はそうはならない。 僕にはそれがわからない。 幸恵から電話がかかった。 高校生のころから編集部に出入りしていた子だ。 その時には専門学校に通っていたのだろうか。 すごい剣幕だ。 どうして二人だけでいるのかと責める。 怒って怒鳴り散らしている。 そんなのは許せない、邪魔してやると言っている。 サトは初めてなんだぞと、要らぬことまでわめく。 幸恵は僕のことが好きなのだと、サトが冷静に言う。 ここまで乗り込んでくるほどの度胸はないようだ。 電話が切れた後、僕たちは何もなかったかのようにゆったりとした時間を過ごした。 僕は少しびくびくしていた。 1978年12月 早稲田大学第1学生会館入り口 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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